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第三十二章 初恋の結末
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悠が近づく。足音は、静か。……怖い。
「……絢聖」
名前を呼ばれる。低い声。声に、眠気はもう残っていない。
起きてしまった。僕は、答えない。振り返らない。振り返ったら、現実に戻される。それが、分かる。
「……何日も、おかしい」
悠は、淡々と言う。感情を抑えた声。でも、抑え切れていない。
「聞かないって決めてた」
一歩、距離が縮まる。
「でも、もう無理だ」
その言葉で、胸が軋む。肩に、手が触れる。強くない。でも、離れない。逃がさない触れ方。
「分かってないふりするのも、限界だ」
僕は、ようやく振り返る。悠の目が、赤い。怒っていない。多分、泣いていた。必死に自分を見てる。それが、一番残酷だった。
「……俺」
悠は、一度息を吸う。
「正しくやろうとしてた。壊したくなかった」
言い訳じゃない。これは、告白。
「でも」
手が、背中に回る。ぎゅっと、抱き寄せられる。距離が、一気になくなる。
「離れたら、終わるって分かってた。だから、離さなかった、何も言わなかった。だけど……」
声が、震えている。その言葉が、胸に突き刺さる。言ってしまった言葉。悠は、額を僕の額に押し当てる。呼吸が、混じる。熱い。現実の体温。
「俺は、ここに、現実に、ちゃんと触れられる距離で、一緒に生きたい」
抱きしめる力が、強くなる。必死に引き止めるための身体。真っ直ぐな言葉。手段を選ぶ余裕がない。
一瞬、迷う。この人は、ここまで来てくれた。正しさを捨てて。悠の指が、服の裾を掴む。
離さない。求めている。繋ぎ止めようとしている。
でも…遅い。
決意が固まっている。自分でそれが分かる。悠の必死さは、もう絢聖に肯定を与えない。彼が感情を表に出してくれて嬉しかった。でも、それは、失う直前の掴み取りだ。
僕は、ゆっくり手を伸ばす。悠の背中に触れる。
優しく。拒まない。でも、応えない。
「……悠」
大切に名前を呼ぶ。静かに。
「ありがとう」
それだけ。悠の体が一瞬固まる。
「……なにが?」
声が、掠れる。
「ここまで来てくれたこと。一緒に揺れようとしたこと」
全部、本当だ。だから、ここで切る。
「でも」
息を吸う。
「もう、戻れない」
悠の力が緩む。そこで、強まらないところが悠らしくて愛おしい。
「……間に合わなかっただけだ」
悠が、呟く。自分に言い聞かせる声。
「俺は、ちゃんと欲しがった。依存させることも出来た。前も言ったけど、あえて、しなかった」
「うん、知ってる」
悠は、苦笑する。
「結局、最後は、身体で引き止めようとした。あの時も、今も同じこと思ってる。俺は...理性を失うのが一番怖い。止められないのが分かるから」
僕は、何も言えない。肯定も、否定も、もう出来ない。
僕は彼の生き方に関与しない、そう決めてしまった。
悠は、一歩下がる。手を離す。自分から離した。それが、彼なりのけじめ。
「……行け」
声は、静かだ。
「行って、揺れてこい。俺は……」
一瞬、言葉を探す。
「俺は、現実に残る」
最後まで、役割を引き受ける人間の声。その瞬間、はっきり分かる。
そこに愛はあった。形が、背負える重さが違った。釣り合った頃には、遅かった。それだけのこと。
触れられても、どれだけ求めても、もう自分はそれに応えられない。
悠の必死さは、美しかった。だからこそ、悲惨だった。
一歩遅かった愛。それが、この初恋の結末だった。
「……絢聖」
名前を呼ばれる。低い声。声に、眠気はもう残っていない。
起きてしまった。僕は、答えない。振り返らない。振り返ったら、現実に戻される。それが、分かる。
「……何日も、おかしい」
悠は、淡々と言う。感情を抑えた声。でも、抑え切れていない。
「聞かないって決めてた」
一歩、距離が縮まる。
「でも、もう無理だ」
その言葉で、胸が軋む。肩に、手が触れる。強くない。でも、離れない。逃がさない触れ方。
「分かってないふりするのも、限界だ」
僕は、ようやく振り返る。悠の目が、赤い。怒っていない。多分、泣いていた。必死に自分を見てる。それが、一番残酷だった。
「……俺」
悠は、一度息を吸う。
「正しくやろうとしてた。壊したくなかった」
言い訳じゃない。これは、告白。
「でも」
手が、背中に回る。ぎゅっと、抱き寄せられる。距離が、一気になくなる。
「離れたら、終わるって分かってた。だから、離さなかった、何も言わなかった。だけど……」
声が、震えている。その言葉が、胸に突き刺さる。言ってしまった言葉。悠は、額を僕の額に押し当てる。呼吸が、混じる。熱い。現実の体温。
「俺は、ここに、現実に、ちゃんと触れられる距離で、一緒に生きたい」
抱きしめる力が、強くなる。必死に引き止めるための身体。真っ直ぐな言葉。手段を選ぶ余裕がない。
一瞬、迷う。この人は、ここまで来てくれた。正しさを捨てて。悠の指が、服の裾を掴む。
離さない。求めている。繋ぎ止めようとしている。
でも…遅い。
決意が固まっている。自分でそれが分かる。悠の必死さは、もう絢聖に肯定を与えない。彼が感情を表に出してくれて嬉しかった。でも、それは、失う直前の掴み取りだ。
僕は、ゆっくり手を伸ばす。悠の背中に触れる。
優しく。拒まない。でも、応えない。
「……悠」
大切に名前を呼ぶ。静かに。
「ありがとう」
それだけ。悠の体が一瞬固まる。
「……なにが?」
声が、掠れる。
「ここまで来てくれたこと。一緒に揺れようとしたこと」
全部、本当だ。だから、ここで切る。
「でも」
息を吸う。
「もう、戻れない」
悠の力が緩む。そこで、強まらないところが悠らしくて愛おしい。
「……間に合わなかっただけだ」
悠が、呟く。自分に言い聞かせる声。
「俺は、ちゃんと欲しがった。依存させることも出来た。前も言ったけど、あえて、しなかった」
「うん、知ってる」
悠は、苦笑する。
「結局、最後は、身体で引き止めようとした。あの時も、今も同じこと思ってる。俺は...理性を失うのが一番怖い。止められないのが分かるから」
僕は、何も言えない。肯定も、否定も、もう出来ない。
僕は彼の生き方に関与しない、そう決めてしまった。
悠は、一歩下がる。手を離す。自分から離した。それが、彼なりのけじめ。
「……行け」
声は、静かだ。
「行って、揺れてこい。俺は……」
一瞬、言葉を探す。
「俺は、現実に残る」
最後まで、役割を引き受ける人間の声。その瞬間、はっきり分かる。
そこに愛はあった。形が、背負える重さが違った。釣り合った頃には、遅かった。それだけのこと。
触れられても、どれだけ求めても、もう自分はそれに応えられない。
悠の必死さは、美しかった。だからこそ、悲惨だった。
一歩遅かった愛。それが、この初恋の結末だった。
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