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猫は皆口悪い
しおりを挟む「カイッ、本当に何ともないの!?痛みとか無い?違和感とかは?」
「だから大丈夫だって…」
「おい人間、さっさと飯よこせ」
お母さんは家に着いても朝になってもそういう質問を問い続けた。
うっかり「土手から落ちた」なんて言うもんじゃないのかもな……。
心配してくれるのはありがたいけどちょっと心配しすぎな気がするのは僕だけなのかな?
「なあそんな事どうでも良いじゃんかよォ~今はなんとも無いんだろ?早く飯くれよ~このかわいいかわいい子猫ちゃんが頼んでんだぞ?なあってば~」
「はいはい、ミーコちゃんはちょっと待っててね~」
…そっか。お母さんには普通に猫語に聞こえるのか…。なんか聞いてて不思議だな…
「と、とりあえず僕はなんともないから…ほらっ、ミーコごはん!」
「うっひょぉおおおおお飯だぁアアア!!」
「あらあら、よっぽどお腹減ってたのかしら」
(ミーコが喉鳴らしてるときって、こんな事言ってたんだ…)
「…これからよろしく、ミーコ」
「え?アンタ何か言った?」
「い、いや、なんでもないよ…!」
「むっちゃむっちゃゴクンッモグモグバクッ」
―――とりあえず、これから「声」が聞こえることに慣れていかないと、ね…。
「キャアァアアアッ!!」
「!?」
「んぁ?」
な、な、な!?
…い、今のって悲鳴だよな…。
外の方から聞こえた…!
窓を勢いよく開け、ベランダの壁に飛びついてあたりを見回す。
「ど、どこだ…!」
「…あ~、おい。それ違うと思うぞ」
「え?…何が?」
すると後ろの方から顔面蒼白のお母さんがそっと言った。
「……カイアンタどうしたの」
「へっ」
えっ……!?お母さんには、今の聞こえなかったのか…?!いや、そんなわけ無い。結構な大音量だったし、なんなら家中に聞こえたかもしれないレベルだった。
「お、お母さん今の悲鳴聞こえなかったの!?ほらっ、外の方からキャーって…!」
「カイ、やっぱ頭でも打ったんじゃ……!いや、きっとそうだわ…!!」
そう言い残し、お母さんは急ぎ足で廊下の奥へと消えた。
「え、ちょっと、お母さん?!…どういうことなの?」
助けを求めるようにミーコを見る。
彼女はくあっ、とあくびをしてアゴを数回動かしてから言った。
「ほら、悲鳴の正体コッチ」
「ん?こっちって言ったって何もギャア!!」
そこには血を流す大きなネズミとそれを食べようとする野良猫の姿が。
「うわわわわッ!!ワっ、ネズミ?!ひぇっ、そういうのよくないんじゃないの!?」
「…ああ?」
野良猫は開いた口をピタリと閉じ、こちらをゆらりと見て言った。
「あんだテメェ…こちとら二日ぶりの飯なんだよ。ジロジロみてんじゃねえ目玉抉りとんぞ雑魚が」
「………猫って皆口悪いのかな…」
その猫の風貌はボスッぽい感じで、茶色に黒のしましま模様がはいった雄猫だった。
…しかし、声がビックリするくらい高かった。
ミーコの高さの三倍くらい高かった。
でも口の悪さも三倍くらい悪かった。
「とりあえず頂くとするか」
「うわーっ!!ちょ、ちょっと待ってストーップ!!ここで食べないでお願い~!」
「は?」
「そういうグロテスクなもの、僕苦手だから…!なんならうちで缶詰とか出すからそれにして!」
「ふざけんな。人間のやることなんて信用できないね」
「そういわずに…!!ツナとかあるよ?!ね、ねっ!?」
「…………なっ?」
「え?」
「……お前、俺の声が聞こえるのか?」
「え、う、うん……聞こえるよ…」
「…驚いた。本当に聞こえる人間に合ったのは初めてだぜ」
僕が猫の言葉がわかると知って、野良猫は少しだけ表情が和らいだ気がした。
「えー。こいつ家ん中入れんのかよ?」
「まあそう言わずに…」
「…!?お、お前は…!!」
ミーコが僕の後ろからすっと出てきてそう言うと、野良猫が驚愕した顔をした。
「ま、まさかッ…あのミーコか!?」
「あん?どのミーコのこと?」
「覚えてないのか!二ヶ月前――俺はこの辺一帯を仕切るボスネコだったが、ある日突然お前が現れて手下共を一蹴!その理由は…!」
思わずごくりと生唾を飲み込む。
「なんかうろうろ鬱陶しいから…!!」
「…ミーコそんな事やってたの?」
「あー確かやったなそんな事~」
「くッ……。仕方無い…。チッ、缶詰のツナはお湯かけるんだぞ」
…あ~。これ、思ったよりずっと厄介なのかも……。
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