動物の声が聞こえるだって!?

よつば

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その少年

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「ミーコ、ミーコ~?」

ミーコがいなくなってしまった。ミーコは僕の家族であり、友達であり、とにかくとても大切な存在なのだ。

彼女はいつも寝てばかり。
四六時中寝てるかと思えばご飯時になると甘えてくる。
そのくせよく引っ掻くし、トイレはしつけないといけないし、外へ出すと泥だらけで帰ってくる。おまけに服を着ないんだから、困ったもんだ。

けれどそんな所も彼女のよさを引き立てているように思える。
どんなに彼女に引っ掛かれようと噛まれようと、それすらも愛しく感じてしまう。

そんな彼女がいなくなってしまっては、僕はどう生きていけばいいんだろう。

そんな未来、考えたくもないし絶対に耐えられない。


「ミーコ、ミーコ!帰っておいで!」

僕がこんなに必死に呼び掛けても、辺りはしんと静まり返っている。

夜の闇が昼間の騒音も、人の話し声も、光も何もかも溶かしてしまったようだ。

「――こら、カイ!もうこんな時間よ。今日はもう帰りましょう」
と、お母さん。
「いやだ。だってミーコ、きっと今ごろお腹を空かせてないてるよ。かわいそうだよ。僕が、見つけてあげなくちゃ…」

お母さんは何もわかっちゃいない。
ミーコが意外と寂しがり屋ってことも知らないから、そんなことが言えるんだ。


ミーコ、ミーコ…。
早く君の顔が見たいよ。
はやく、君を抱き締めたいよ…


ちりん。


「!」
鈴の音が聞こえた。これは間違いなく、ミーコの首輪についている鈴の音だ。

「ミーコッ、ミーコ!!どこにいるの!?」

暗闇の中、目を凝らしてミーコの姿を探す。
確かに音は鳴っている。このどこかにいるハズなのだ。


「ニャァ」

「!ミーコ!!…あっ」
「カイッ!!」







『……い、お……』

…ん……。ミー、コ…。ミーコの声がする…。
確か僕はミーコの声がする所へ走っていったら、滑ってしまって……頭を打ったのかな?
…でも、ミーコに会えさえするなら別にどうってことないや。
近くにいるのかい…?

『……い。おい、起きろコラ。』

………。

…!!??


なっ、なっ……!?ミッ、ミーコ?!

『うっせーなぁ~…ちょいと喋りかけてるだけだろ?これだから人間は…』


…なんだ?ミーコが、ものすごい流暢りゅうちょう辛辣しんらつな日本語を喋っている。
でもいつものように高音だ。可愛らしい。


『おい、人間。手短に説明するが、お前は先程滑って転んで頭を打った(ザマァ)。が、飼われてる側としてはアンタに死なれちゃ困るんでね。ちょいと力を分けさせてもらったよ』

…?()かっこの中身は聞かなかったことにしよう。…力を、わける?どういうこと?

『そのまんまの意味よ。あのままだとアンタは意識不明、最悪死んでたかもだったからね。うちら動物の力を分けてやったのさ』

えっ!?ぼ、僕、死ぬかもしれなかったの?!

『だぁーらさっきからそうっつってんだろヴぁ~か』

そ、そうか。…とりあえず、ありがとうね。

『フン。お礼はかつお節でも寄越すんだな。』

うん。うちに帰ったらシャケと一緒に、たっぷりご馳走するよ!


「ぅワっ!!」

ぽっかりと空いた真っ黒な空が目の前に見える。所々細く小さな光がぴかぴかと輝いていた。

数回、瞬きをする。
五感が再起したようにゆっくりと脳に伝わっていった。

まわりに生い茂る草の独特なにおい。
ひやりとするけど気持ちいい、夜の空気。
しんと静かな辺りの音。

ここで死ぬのなら良いかもしれない。なんて、まだ小学五年が言うことじゃないかな。

「……あれっ。もしかしてさっきの、夢?」

「夢じゃねーよ」

「わぁッ!!」

し、しまった。今夜なのに、ガッツリ叫んでしまった。近所の皆さんごめんなさい。


「わ、わわ……!な、なんか感動的だなァ」

「そ、そうか?なんかキモチワルイぞ」


遠くの方でお母さんの声が聞こえた。どうやら僕は土手のところで転んだらしく、暗いために発見もしづらいのだろう。


「…じゃあ、家へ帰ろうか、ミーコ!」
「帰ったらシャケにかつお節……だからな。」


ちょっと口の悪い猫と始まる、僕の不思議な毎日が始まったのでした。


おわり
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