1 / 2
その少年
しおりを挟む「ミーコ、ミーコ~?」
ミーコがいなくなってしまった。ミーコは僕の家族であり、友達であり、とにかくとても大切な存在なのだ。
彼女はいつも寝てばかり。
四六時中寝てるかと思えばご飯時になると甘えてくる。
そのくせよく引っ掻くし、トイレはしつけないといけないし、外へ出すと泥だらけで帰ってくる。おまけに服を着ないんだから、困ったもんだ。
けれどそんな所も彼女のよさを引き立てているように思える。
どんなに彼女に引っ掛かれようと噛まれようと、それすらも愛しく感じてしまう。
そんな彼女がいなくなってしまっては、僕はどう生きていけばいいんだろう。
そんな未来、考えたくもないし絶対に耐えられない。
「ミーコ、ミーコ!帰っておいで!」
僕がこんなに必死に呼び掛けても、辺りはしんと静まり返っている。
夜の闇が昼間の騒音も、人の話し声も、光も何もかも溶かしてしまったようだ。
「――こら、カイ!もうこんな時間よ。今日はもう帰りましょう」
と、お母さん。
「いやだ。だってミーコ、きっと今ごろお腹を空かせてないてるよ。かわいそうだよ。僕が、見つけてあげなくちゃ…」
お母さんは何もわかっちゃいない。
ミーコが意外と寂しがり屋ってことも知らないから、そんなことが言えるんだ。
ミーコ、ミーコ…。
早く君の顔が見たいよ。
はやく、君を抱き締めたいよ…
ちりん。
「!」
鈴の音が聞こえた。これは間違いなく、ミーコの首輪についている鈴の音だ。
「ミーコッ、ミーコ!!どこにいるの!?」
暗闇の中、目を凝らしてミーコの姿を探す。
確かに音は鳴っている。このどこかにいるハズなのだ。
「ニャァ」
「!ミーコ!!…あっ」
「カイッ!!」
『……い、お……』
…ん……。ミー、コ…。ミーコの声がする…。
確か僕はミーコの声がする所へ走っていったら、滑ってしまって……頭を打ったのかな?
…でも、ミーコに会えさえするなら別にどうってことないや。
近くにいるのかい…?
『……い。おい、起きろコラ。』
………。
…!!??
なっ、なっ……!?ミッ、ミーコ?!
『うっせーなぁ~…ちょいと喋りかけてるだけだろ?これだから人間は…』
…なんだ?ミーコが、ものすごい流暢で辛辣な日本語を喋っている。
でもいつものように高音だ。可愛らしい。
『おい、人間。手短に説明するが、お前は先程滑って転んで頭を打った(ザマァ)。が、飼われてる側としてはアンタに死なれちゃ困るんでね。ちょいと力を分けさせてもらったよ』
…?()の中身は聞かなかったことにしよう。…力を、わける?どういうこと?
『そのまんまの意味よ。あのままだとアンタは意識不明、最悪死んでたかもだったからね。うちら動物の力を分けてやったのさ』
えっ!?ぼ、僕、死ぬかもしれなかったの?!
『だぁーらさっきからそうっつってんだろヴぁ~か』
そ、そうか。…とりあえず、ありがとうね。
『フン。お礼はかつお節でも寄越すんだな。』
うん。うちに帰ったらシャケと一緒に、たっぷりご馳走するよ!
「ぅワっ!!」
ぽっかりと空いた真っ黒な空が目の前に見える。所々細く小さな光がぴかぴかと輝いていた。
数回、瞬きをする。
五感が再起したようにゆっくりと脳に伝わっていった。
まわりに生い茂る草の独特なにおい。
ひやりとするけど気持ちいい、夜の空気。
しんと静かな辺りの音。
ここで死ぬのなら良いかもしれない。なんて、まだ小学五年が言うことじゃないかな。
「……あれっ。もしかしてさっきの、夢?」
「夢じゃねーよ」
「わぁッ!!」
し、しまった。今夜なのに、ガッツリ叫んでしまった。近所の皆さんごめんなさい。
「わ、わわ……!な、なんか感動的だなァ」
「そ、そうか?なんかキモチワルイぞ」
遠くの方でお母さんの声が聞こえた。どうやら僕は土手のところで転んだらしく、暗いために発見もしづらいのだろう。
「…じゃあ、家へ帰ろうか、ミーコ!」
「帰ったらシャケにかつお節……だからな。」
ちょっと口の悪い猫と始まる、僕の不思議な毎日が始まったのでした。
おわり
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる