龍は夜を見上げる。

tea(てあ)

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夜想曲

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 夜明けと共に、村長、父さん、僕は祠へ向かった。
 朝の張り詰めた空気は肌が切れるかと思うくらい冷たい。僕は獣の毛皮で作られた上着に首を埋める。街に行けばこんな痒くなる服じゃなくて、快適に暖を取れるコートが売っているというのに。値は張るけど魔法コーティングされた外套もあるらしい。なぜこんなに原始的な生活なのかこの村は。腰の曲がった、髪より髭が多い村長を後ろから睨む。
 そもそもこの貢物も理解できない。
僕は背中に重くのしかかる米俵を担ぎ直した。自分たちの生活が苦しくなるくらいに貢物を差し出すなんて馬鹿げてる。そんなこと望んでるとは思えない。
 祠に着く前から『それ』の姿は見えている。というかどこにいても見える。見えない場所まで離れたことがない。山のようにでかい。
 祠に着くと、村長が恭しくお辞儀をして語り出す。
 「我らが村を守りし『夜龍』よ。――此度の供物をどうかお納めくだされ。――そしてまた安寧の時をお与えください――」
 眠くなるリズムとトーンのせいで所々聞いていなかった。長くて聞く気もしない。
 祠の前に米や肉、野菜を並べ奉る。この量があれば村人全員が満腹になるだろう。これを三日毎にやるから空腹で仕方ない。
 僕は下げていた頭をちょっと上げて夜龍の顔を見る。頭だけでも家より大きい。深く黒い目は人ひとり入れても気にしなさそうだ。風かと思ったら鼻息で、傍の木が揺れている。
 遠くからだと、山の隣に黒い空間があるな、と混乱する。ここまで近くなら、艶やかに光る漆黒の鱗までよく分かる。
 木々が薙ぎ倒される。夜龍が腕を動かしているのだ。日の傾きのように、ゆっくりと、動いているつもりなのかもしれない。しかし配慮虚しく、鳥や獣が大騒ぎしている。
 夜龍は腕の鱗を一枚、爪で剥ぐ。あの爪で畑を耕したら一撫ででおわるだろうな。
 供物の隣に鱗が差し出される。四人掛けのテーブルくらいの大きさ。それは他の黒い鱗と違い、きらきらと黄金色に輝いていた。
 村長が深々と頭を地に着ける。父さんを真似して僕も土下座する。
 村長が長々と何か言っている。要するに「『星の鱗』をくれてありがとう」と申し上げている。
 夜龍の鱗の中に、ごく稀に金の鱗がある。夜龍の気分次第で頂けるらしい。村の宝として保管されている。売ればいいのに、と考えてしまう。龍の鱗というだけで高値なのに、黄金色となれば破格の価値だろう。
 山に潜む野盗が村を狙うことも多々ある。その時は夜龍が助けてくれる。雷や火の魔術を器用に使うのだ。
 こうなるとまた貢物が増えて結局大変だったりして…。龍との共生は僕にとって「困ったこと」だ。
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