純真な君は檻の中で愛される

田中

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第三章 白亜の牢獄

一匹狼の拗ねた牙

  五日目の昼。別荘の玄関先には、迎えの車が停まっていた。
輝くような緑に囲まれたこの場所とも、ついにお別れだ。

「さぁ、行こうか。…柏」

皇が刻の手を取り、車へと導く。
乗り込む直前、刻は一度だけ別荘を振り返った。

「なんだか寂しいねぇ…。…皆、本当にありがとうございましたぁ」

刻が満面の笑みでペコリとお辞儀をすると、鳴海が堪らなくなったように刻を横から抱きしめた。

「…ときちゃんこそ、来てくれてありがとう。」

「そうです、お礼を言うのは私たちの方ですから。…私たちのこと、見捨てずに着いてきてくれてありがとう」

「…!!ううん、合宿本当に楽しかったから。

これからもお世話係としてよろしくねぇ」

合宿など今まで体験をして来なかった刻にとって、この5日間はかけがえのないものになっていた。


  別荘を後にしたワゴン車の中は、連日の疲れと午後の柔らかな日差しに包まれ、穏やかな沈黙が流れていた。

助手席では鳴海が、後部座席の端では皇が、深い眠りに落ちている。
その中央で、刻もまた鳳の肩に頭を預け、規則正しい寝息を立てていた。
鳳だけが、眼鏡の奥の鋭い瞳を開け、窓の外を流れる夏の景色を眺めていた。

ふと、隣で眠る少年の重みを感じ、鳳は視線を落とす。
「…柏くん。君は、自分がどれほど無防備か分かっていない」

鳳の声は、エンジンの音に消えるほど低かった。
彼は周囲が完全に寝入っていることを確認すると、音を立てずに眼鏡を外し、刻の顔を覗き込んだ。

少しだけ開いた唇、熱を帯びた頬。
鳳は、誰にも気づかれないほどの速さで、刻の唇に自分のそれを重ねた。

触れるだけの、けれど執着に満ちた接吻。

刻が僅かに身じろぎをすると、鳳は満足げに、再び冷静な副会長の仮面を被って、刻の頭を優しく自分の胸へと引き寄せた。


夕暮れ時、車は学院の寮の前に到着した。
夏休み中とはいえ、名門の子息である彼らには、実家への帰省や公務が待っている。

「柏、明日からは俺も実家に戻る。…だが、毎日連絡しろ。返信が遅れたら、すぐに迎えに来させるからな」

皇が、刻の細い肩を抱きしめ、離し難そうにその髪に鼻先を寄せた。

「ふふ、ちゃんと連絡しますから。…お気をつけて、帰ってくださいねぇ」

刻は少し寂しそうに笑って答えた。

「ときちゃん、またね。
…俺、本当は帰りたくないんだけど。休みが終わったら、真っ先にときちゃんに会いに来るからね。約束だよ?」

鳴海が刻の指先に軽くキスを落とし、ウィンクを投げる。

「柏くん。荷物は部屋に運びました。
何かあれば、すぐに私に報告するように。いいですね?」

鳳が、いつものように冷静な口調で、けれど名残惜しそうに刻の頬を一度だけ撫でた。
三人のエリートたちを見送り、刻は一人、静まり返った寮の中へと足を進めた。


「ふぅ…。なんだか、急に静かになっちゃったな」

自分の部屋の前に立ち、鍵を取り出す。
大和はまだ遠征中で不在、他の生徒たちも帰省しているはずの、誰もいない寮。

ガチャリ、と鍵を開けて部屋に入り、電気をつけようとしたその時。

「……遅かったな、刻」

暗闇の中から響いた低い声に、刻の心臓が跳ね上がった。

「ひゃっ!? …こ、虎徹くん!?」

ベッドの上に、一匹狼の虎徹が、我が物顔で座っていた。
窓から入り込んだのか、それとも合鍵でも作ったのか。

彼は月明かりに照らされ、鋭い瞳で、生徒会たちの匂いを纏った刻を睨みつけていた。

「生徒会の連中と、随分仲良くやってたみたいじゃねーか。」

虎徹が立ち上がり、ゆっくりと、けれど逃げ場を塞ぐように刻に歩み寄る。

「虎徹くん、…どうして、ここに……」

「あんなガバガバな鍵、針金一本でありゃ十分だ。…それよりお前、連絡一通も返さなかったな」

虎徹がベッドから立ち上がり、ゆっくりと、けれど獲物を追い詰める獣のように刻へ歩み寄る。その一歩一歩に、5日間溜め込まれた苛立ちが滲んでいた。

「…合宿、楽しかったか? あの生徒会の気取った連中に、散々甘やかされてたみたいじゃねーか」

虎徹は刻の目の前で足を止めると、乱暴に刻の腕を掴み、自分の方へと引き寄せた。

「生徒会のお仕事でちょっと忙しかったんだよ。……虎徹くん、怒らないでよぉ…」

刻がいつものようにへらへらと笑って誤魔化そうとすると、虎徹はさらに顔を近づけ、刻の首筋に鼻先を寄せた。

「…クソ。…あいつらの匂いが染み付いてやがる。いつもの刻の匂いじゃねえ」

虎徹の声が、低く震える。

「…俺はここでお前をずっと待ってたんだぞ。大和もいねーから暇を潰すこともできねーし、お前もいねー。…飯も喉を通らねーくらい、イラついてたんだよ」

いつもは一匹狼でクールな虎徹が、まるで置いていかれた子供のように剥き出しの不満をぶつけてくる。そのギャップに、刻は戸惑いながらも、彼の体温を感じて胸がキュッとなった。

「ごめんねぇ、虎徹くん。寂しかったね」

「寂しくねーよ。…ただ、お前を躾け直さねーと気が済まねーだけだ」

刻をそのままベッドへと押し倒した。
虎徹はただ目の前の刻を自分だけのものにしたいという本能に従っていた。

「虎徹くん、重いよ…」

「黙れ。…今夜は朝まで、俺以外の名前を呼べなくしてやる」

虎徹の手が、刻のシャツの裾から入り込み、その白い肌を直接確かめるように這い上がる。

その指先からは、刻という存在を誰にも渡したくないという、不器用で必死な愛着が伝わってきた。

  生徒会という「檻」から解放されたはずの刻を待っていたのは、より野生の匂いがする、もう一つの執着だった。
感想 2

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みんなの感想(2件)

あやめ
2026.03.24 あやめ

初めまして!
コメント失礼します🙇
学園モノって偽チャラ男とか族モノとか腐男子受けとかばっかりでこういう作品あんまりなくてこの作品に出会えてうれしいです🫶
ドンピシャで刻くんには申し訳ない気もしますが、もっとやれ!って感じですね💦
みなさんいいキャラしてますね。最初は鳴海くんが良いなって思ってたんですけど今は鳳くん萌えって感じです(≧∀≦)
長文失礼しました。

2026.03.24 田中

コメントありがとうございます!
私自身もそういうのが多いのが残念で書き始めたので、そう言っていただけてとても嬉しいです😭
これからどんどん話煮詰めていく予定なので楽しみに待っていただけたら幸いです(՞ . . ՞)"

解除
yayuyodesu1101
2026.03.22 yayuyodesu1101

めちゃくちゃいいすね。
鳴海くんかわいいです!!
これからどうなるのか楽しみです!
更新頑張ってください!!

2026.03.22 田中

ありがとうございます!
応援のコメント励みになります。
更新の方頑張りますのでお待ちくださいm(_ _)m

解除

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