最初のものがたり

ナッツん

文字の大きさ
5 / 87

陰気野郎

しおりを挟む
昨日、ツバサくんに言われたから、
仕方なしに陰気野郎に挨拶をした。

「おはよう」

まぁ、安定の無視!

もう、ツバサくんのせいだからね!

もう2度と話しかけない。

窓の外を眺めた。
桜並木が見える。

もう緑の葉がほとんどだけど、
まだところどころにピンクが見える。

私、葉桜好きなんだよね。

あの緑が深くなる感じが好き。

また大好きな季節が来るなぁ
と思っていたらウトウトしていた。

ふわふわの雲の上を歩く私。
ツバサくんに呼ばれてる。

―どこ?―

呼びかけながら、
不安定な雲の上を必死に歩く。
見つけられず落ち込む私の肩を誰かが叩く。

―ツバサくん―

顔を上げたら隣の陰気野郎で、
一気にガッカリした。

なのに、
その陰気野郎に「早くしろ」と吐き捨てられ、私も怒ってついつい言っちゃった。

「話しかけんな、中2病の陰気野郎!」

そう言った直後にまた、
ツバサくんの声が聞こえて声の方に行く。

どこなの?ツバサくん。

背中が見えて嬉しくて駆け寄った。

その途端、足を踏み外し雲の隙間から
下に落ちそうになりドキッとして飛び起きた。

ふと、周りを見渡した。

誰もいない。

え、なんで?

みんな、どこ?

時計を見る。

え、と、今。

うそ。

私、まるまる1時間寝たのか!

という事は、みんな、体育してるんだ。

そっか、夢か。

夢なら尚更、ツバサくんに会って
「好き」って言ってみたかったな。

夢の中のツバサくんは、
何て答えてくれるんだろう。

私の夢のだから、都合よくいくのかな。

たとえ夢の中でも、
ツバサくんに受け入れてもらえたら、
その記憶だけで生きていける気がする。

そんな事を考えながら、
体操着に着替えて体育館に向かった。

みんな、バスケをしていた。
そっとバレないように仲間に入る。

良かった、先生にバレてない。

「ナナミ、やっと起きたんだ」

最近仲良くなった、
前の席のサナちゃんに言われた。

「なんで起こしてくれなかったの」

ふくれる私にニヤニヤして

「え、何回も起こしたんですけど。
ナナミ、全く動かないし、
なんか嬉しそうな顔してたから
寝かしてあげた」

嬉しそうな顔か。

でも会えなかったんだよね。

授業が終わり、先生に体育委員が呼ばれた。

陰気野郎がチラっと私を見て鼻で笑った。

本当、感じ悪い。

話しかけんなって言うなら
私の事も無視して欲しい。

「木下、どうした?
遅れて来たよな。体調不良か」

そう先生に聞かれ、それに乗った。

「はい、すみません。」

先生は優しくて

「おお、お大事にな」

そう言ってくれた。

陰気野郎がまた私を見下した目で見る。

「体育測定の結果を配るから、
あとで取りに来てくれ。
あと来月の球技大会でバスケやるよな、
その時にデモンストレーションで、
体育委員はシュートショーするから
よろしくな。
まぁ軽いお楽しみみたいな感じだ」

ガハガハ笑う先生!

シュートショー?

何ですか、それ。

「いや、だから、体育委員がさ、
各々、カッコよくゴールを
決めてみせてくれればいいんだよ。
リレー形式にどんどん回るからさ
緊張せずに楽しめ、楽しめ。
まぁ、外す奴もいるけど、
リトライしてもゴールすればいいから。」

じゃあよろしく!と先生は帰って行った。

え、私、自慢じゃないけど、
あのカゴにボールが入った事がない。

どうしよう。

体育委員が運動神経いいなんて、
誰が決めたんだ!

青くなる私をよそに、
陰気野郎はさっさと背中を向けて
教室に戻って行った。

陰気野郎は確かバスケ部だ。

コイツは華麗にゴールを決めるんだろうな。

なんか悔しい。

中2病の陰気野郎になんか負けたくない。

練習しないと。

でもどうやって。

考えてる暇はない。

思いつく限りの事をしようと思った。

まずは目から。

毎日バスケ部を見学しよう。

あとは実践。

帰りに公園のバスケゴールで少し練習。

あとあと、そうだ、昔、漫画で見た。

サッカー少年が、
いつもボールを持って生活してたやつ。

さすがに学校まで持ち歩いてたら怪しいけど。

家ではバスケットボールを側に置いておこう。

先生に許可をもらい、ボールを1つ借りた。

「なんだ、お前、気合い入ってるな。
期待してるぞ」

お門違いな期待をされ、追い込まれた私。

ネットでバスケゴールの動画も見ないと。

ヤバイ。

運動、もっとしておくんだったな。

教室に戻り席に着く。

私の大きなため息に、
陰気野郎が腕組みをしたまま、
チラっと見た。

「あの、工藤くん?
工藤くんってバスケ部だったよね?」

出来心で声をかけた事を、
ものすごく後悔した。

その目に軽蔑というか、
汚い物をみるような
そんな嫌悪感が浮かんでた。

「だから何?
チャンスだとか思った?
残念だったな、
俺はそんな事に乗らない」

また頭がハテナでいっぱいだ。

この人はまともに話ができないんだな。

質問と答えが合ってないと思うのは私だけ?

「あのさ、工藤くんって国語苦手?」

私の質問に、あからさまに
敵意むき出しの視線を投げつけ、
そのまま話しかけんなオーラを出した。

「苦手なのか」

悔しいから、それだけ呟いといた。

でもこの人、大丈夫なのかな。

コミュニケーション苦手。

なんか話が通じない。

いつも不機嫌。

何か大きな問題を抱えてるのかな。

ツバサくんが言う通り、
本当に病気なのかな。

優しく、か。

そっか、そうなのかもしれない。

こんなにこじらせるんだもの、
ツライ家庭環境とかかも?

でも。

そうだとしても。

ツバサくん、
この人、どうしたらいいと思う?

私、苦手だ。

というか、嫌いかもしれない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

Fly high 〜勘違いから始まる恋〜

吉野 那生
恋愛
平凡なOLとやさぐれ御曹司のオフィスラブ。 ゲレンデで助けてくれた人は取引先の社長 神崎・R・聡一郎だった。 奇跡的に再会を果たした直後、職を失い…彼の秘書となる本城 美月。 なんの資格も取り柄もない美月にとって、そこは居心地の良い場所ではなかったけれど…。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

私は秘書?

陽紫葵
恋愛
社内で、好きになってはいけない人を好きになって・・・。 1度は諦めたが、再会して・・・。 ※仕事内容、詳しくはご想像にお任せします。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

処理中です...