最初のものがたり

ナッツん

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モテ男

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体育の授業は球技大会の練習でバスケだ。
女子をチーム分けして試合をした。

もちろん私は役立たず…

それどころか動きが怪しすぎて見学してるチームや男子にも爆笑された。

工藤くんも口に手を当てて静かに笑ってる。

ひどすぎる。

私が工藤くんを睨んでると、
突然体に衝撃を受けて体が飛んだ。

「あ、ごめんなさい。でもよそ見してるからだよ」

そう言われ相手チームの子が通り過ぎた。

あの子、名前、なんだっけな。

そう思う間も無く右手に激痛が走り、
誰かに手を踏まれた。

早く起き上がらないと。

起き上がろうと無防備になったところを、
後ろから追突されまた転んだ。

両手を突いてまた激痛が走る。

痛めてた手首をまた痛めた。

ヤバイ、超痛い。

そのままうずくまり痛みを耐える。

に、しても、だ。

なんかわざとやられてる気がする。

目だけ上げて見ると、
最初にぶつかった子のまわりに2人、
ニヤニヤしてこっちを見てる。

なんだ、アイツら。

やり返してやろう。

立ち上がったその時、
工藤くんが私の腕を引きコートから出した。

「きゃー」

悲鳴のようなものが上がり驚いた。

周りを見渡すと何人かの女の子が、
顔を覆ったり口に手を当てて叫んでる。

「何、何かあったの?地震?」

工藤くんは黙って私の手首を確認する。

「いやーやめて。」

な、何なの?何が起こってるの。

不安でキョロキョロする。
先生を見ると笑ってる。

どうして笑ってるんだろう。

「結構、痛めたな。
先生、保健室連れて行きます」

そう言って私の腕を引き、
体育館のドアを開け外に出た。

「あの、工藤くん?私達が連れて行きます。」

あの3人が後を追ってきた。

こいつら。

「ねえ、さっきわざとやったでしょ。
何なの?何か文句あるならハッキリ言ってよ。卑怯じゃん」

3人を睨んだ。
3人は顔を見合わして震える仕草をする。

「えー。試合なんだから、アタル事もあるよね。
怖い、木下さん。怒らないで。
ごめんなさい。」

涙目で訴える。

え、そうなの、か。

ちょっとひるんだその時、
工藤くんが私の前に立った。

「ねぇ、そういうの俺、乗らないから。
鬱陶しい。
あと試合でもなんでも人に体当たりして、
ケガをさせといてヘラヘラ笑う女は最低だ」

お、おいおい。

また勘違い男出てるぞ。

というか国語力ね。

彼女達の話のどこであなたが出てくるわけ。

「ごめんね、工藤くん、中2病なんだ」

彼女達に謝った。
だけど彼女達は私を全く見ずに、
工藤くんを上目遣いで見てにっこりする。

「ごめんなさい、工藤くん。
怒らないでね。」

「怒ってもいいんだけど。うふふ」

「私達、工藤くんが木下さんに付きまとわれて、
迷惑してるんだと思ったから助けたくて」

え、え、何、この状況。

話が通じてないのは私だけなのか。

「もう消えて。これ以上怒らせないで」

3人ともにっこり笑って頷いた。

「うん。」

素直に体育館に戻って行く。

「初めて工藤くんと話しちゃった」
「うん、目が合ったよね」
「カッコ良すぎてヤバイ!」

何が起こってるんだろう。

え、どういう事なの?

全然、理解できない。

「ねぇ、私だけ違う世界だったよね、今」

そう言う私の腕を引きながら歩く。

「はぁ。お前さぁ…
自分を庇ってくれた人間に中2病とか、よく言えんな。
木下こそ国語力ないよ。
あと、前も言ったけど周りをよく見ろ。
観察しろよ。興味持て。」

えー。

工藤くんに国語力について言われたくないんだけど。

なんかムカムカしてふくれる私に、
笑いながら先を歩く。

途中、校舎や階段で生徒とすれ違う。

女の子達が私達を見てヒソヒソ話したり、
悲鳴をあげたりしてる。

ショックを受けて座り込んだり泣いてる子もいた。

なんだ、これは。

え、まさか、いや、ないか。

でも、この反応は。

「工藤くんってさ、モテるとか?」

聞いてみた。
振り返って真顔になる。

「ねぇ、木下さん?俺をどう思う?」

ちょっとキメ顔をする。
ジックリと見てみた。

うん、確かに整った顔立ちだとは思う。

瞳は茶色でくっきり二重。

笑うと目尻が下がって幼く見える。

髪もサラサラで太陽に透けて、
金の糸みたいにキラキラしてる。

その髪が眉にふんわりとかかって、
上目遣いに覗くと猫みたいだ。

背も高いしスタイルもいいんだろう。

確かに、怒ってる顔も、
あの子達の言う通り凛々しく見えるかもね。

カッコいい部類なんだと、思う。

だけど、こういうのって好きずきだよね。

その外見を持ってしても、
内面の酷さを補えてない。

「言っていいの、本当に」

優しく笑って私を見る。

「妹に愛嬌とコミュ力を、
全て持っていかれた可哀想な子かな。
でも、陰気野郎ではなかった。
感情もありそうだし。安心したよ」

笑顔が一瞬で崩れまた私を睨み、
そのまま前を歩いて保健室に向かい出す。

「ごめん、ごめん、外見の事でしょう。
整ってるなって思うよ。
好きずきだけど、
工藤くんみたいな顔立ちが好きな子も多いのかなって。
だからモテるんだよね。
さっきから、女の子達、注目してるもんね。」

不満そうに私を見る。

「フォローするみたいに言うな。
別に木下に俺の外見を褒められたかった訳じゃない。
でも女はみんな俺が好きなんだよ。
ほっといて欲しくても関わろうとする。
怒っても無視しても喜ぶ。
だから俺は女が嫌いなんだ」

思いっきり引いた。

ドン引きだ!

やっぱり

「中2病か」

立ち止まって保健室のドアを開け、
私を押し込む。

「くだらねぇ事言ってないで、
ちゃんと手当てして来い」

そう言って体育館に戻って行った。

「どうしたの、ケガ?」

保健室の先生に声をかけられ、
手首のテーピングを替えてもらった。

「ねぇ先生。
この学校に超モテモテで、
女の子がほっとかない子っている?
怒っても無視してもあきらめずに
関わりたくなるような人」

先生はにっこり笑って言った。

「あー工藤くんでしょ。1年生の。
入学前から噂だったよね。
知らない子いないんじゃない?
実際、かわいいしね。」

衝撃的だった。

工藤くんの言ってた事は、
勘違いとかうぬぼれとかではなかったのか。

なんで、私、気がつかなかったんだろう。

興味ないからだな。

私、ツバサくん以外の男の子は芋だと思ってるから。
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