9 / 25
二日目 事件
二日目・2 血の跡は彼の名を作る
しおりを挟む
寺内君の後についてたどり着いたのは、三階の隅の教室だった。僕らが泊まった教室の、ほぼ真下である。
みんな教室のドアの前に群がっていた。柴田さんが戸口にふさがって人を入れないようにしていたが、誰もが呆然としてただ立ちすくんでいるように見えた。僕は人垣を掻き分け、中を覗き見た。
生臭い匂いがした。
県総祭準備のために、片付けられてガランとした教室。
その、真ん中に。
たった昨日まで菅原さんだったものがあった。
倒れて──あの赤いのは──頭を、割られて、る?
それを正確に認識したとたん、吐き気が僕を襲った。
「嘘、だろ?」
僕の後ろで、上月さんがうめくような声を上げた。
「嘘や冗談であんな風になれるか」
と、ふらりと戸田さんが柴田さんの横をすり抜けて中に入って行った。
「お、おい! どうする気だ!?」
「死体を見ときたい」
「やめろ。これは殺人なんだぞ! 勝手なことをするな!」
戸田さんの足が止まった。後ろ姿のまま、言う。
「ムラサキ田。おまえ、自分の言ったイミ判ってんのか?」
「なに……?」
「確かに、こいつぁどう見たって殺人だ。しかし、ここは外から入れない、中からも出られない孤立空間だ。なら、どうしたってこの中に犯人がいる──ってことになるじゃねェか」
一同に動揺の色が走った。柴田さんさえうろたえた。その隙に、戸田さんはさっさと死体に近づいて行き、その脇にしゃがみこんだ。そのまま戸田さんは黙祷するようにしばらく目を閉じ、じっとしていた。
「暗いな。……誰か、ライト貸してくれ」
戸田さんにライトを差し出したのは、三沢さんだった。
「さんきゅ。──おまえ、平気なのか?」
「平気じゃないよ。だけど、記録は録っとくべきだろ」
見ると、三沢さんは片手に小型カメラを持っている。
「このカメラのバッテリーは、まだ十分あるはずだ。……でも……」
三沢さんは、少しだけ声を震わせた。
「昨日まで──つい昨日まで生きてた奴が、こんな姿になってんのを見ると──やっぱ精神的ダメージきついな」
「……同感だ」
口調こそ落ち着いているものの、戸田さんの表情は能面のように硬く──その下に、友人を亡くした哀しみがうっすらと透けて見えた。
戸田さんはぎこちなくライトを点けようとしたが、点かなかった。彼は首を少しかしげ、スイッチをいじったり電球を覗き込んだりしていたが、やがて電池入れのフタを外した。単一の乾電池が四個、転がり出た。電池の+-がバラバラの状態で入っていたらしい。点かないはずだ。
「どうかしたか?」
柴田さんが、戸田さんの後ろから近づいて来た。いや、何でもない、と戸田さんは上の空で答え、少し辺りを見まわすしぐさをした。それから初めて柴田さんがいるのに気づいたように、
「あれ、ムラサキ田君、現場保存すんじゃなかったの?」
「ああ。証拠隠滅とかされちゃ、かなわないからな」
「するかよ」
僕は恐る恐る戸田さん達に近づき、今度はもっと近くから現場を覗き見た。菅原さんの死体は、右側の後頭部をめった打ちにされていた。頭蓋骨が割れ、中身が見えている。再び襲ってきた吐き気を僕は何とかこらえた。──戸田さんはどうしてこんな凄惨な場面を平気な顔して見てられるんだ?
僕は死体から目をそらした。死体の周りには何も落ちていない。凶器らしいものも見当たらない。……何も? あれ?
何となく感じた違和感。さっき目を覚ました時と同じように、何か足りないような感じがする。何だろう? しかし、またしても僕の脳味噌は、その正体を教えてくれなかった。僕はキョロキョロとそこら中を見まわしてそれが何か探そうとしたが、柴田さんが素足にスニーカーを履いてるとか、三沢さんの口元にニキビがあるとか、そんなくだらないことしか目に入らなかった。
「見ろ!」
突然、柴田さんが叫んだ。死体の手元を指差している。
投げ出された左手に、何かが握られている。髪の毛のようだ。金色に近いほど薄い色の、癖のある髪の毛。そして、死体の右手は、血で汚れて──床に、血で書いた線が残っていた。線は集まって、カタカナ文字を作っている。
──「キノ」。
全員の眼が、木野さんの方を向いた。
木野さんは、幾分青ざめた表情で視線の中心に立っていた。
「俺、だと?」
笑ったように見えた。が、ただ顔を引きつらせただけだったのかも知れない。柴田さんがつかつかと近寄った。
「初対面の俺達には、菅原を殺す動機はない。可能性があるのは、同じ学校のおまえらだけだ。そして、……ここに証拠もある」
「俺じゃねえ!!」
木野さんは吼えた。
「じゃあこれは何だ!?」
柴田さんはいきなり木野さんの髪をつかみ、何本かむしり取った。その髪の毛──死体の手に握られていたのと同じ色だ──を目の前につきつける。
「こんな髪の毛してんのは、この中でおまえだけだ! 茶髪の奴はいくらでもいるが、こんな金色の毛なんていやしないだろうが!!」
明智さんも上月さんも、髪を染めている。でも明智さんの髪は長いからすぐ見分けられるし、上月さんは金髪と言うより赤毛と言った方がいい色だ。何よりも、この独特の癖っ毛は木野さんのものとしか考えられない。
「それに、ダイイング・メッセージもあるね」
三沢さんが付け加えた。
「死に際の伝言。死ぬ前に、何とか犯人の手がかりを示そうとして書いた血文字。暗くて判らなかったのかな? 結構はっきり残ってるね」
「でも、俺はやってない! 俺にだって菅原殺す理由なんかねえよ!! 第一、俺は菅原が抜け出したことすら知らねーで寝てたんだぞ!! アリバイと言う点だったら……」
木野さんは鋭い目で僕らを見まわした。
「……みんな一緒じゃねェか」
一気に空間が静まり返った。
その時、僕は戸田さんが額に手を当て、一心に何か考えているのに気づいた。彼だけが、この緊迫した空間を離れて別の場所にいるかのように見えた。
「アリバイなんか問題じゃないだろう。何度も言うが、俺達は初対面の菅原を殺す動機なんかないんだ」
「俺だってないって!! 大体俺は……」
「──木野」
不意に、戸田さんが木野さんの名を呼んだ。その声は決して大きくはなかったが、ぴしりとムチのように強く鼓膜を叩いた。僕らは戸田さんを振り返った。
戸田さんはゆっくり顔を上げた。その眼に、あの不敵なまでの輝きが戻って来ている。
「残念ながら、この場の証拠はどうやらおまえを向いてる。警察が来るまでおとなしくしといた方が得策だぜ、木野」
「で、でも……」
戸田さんは、にぱぁ、と笑った。
「そこで、だ。こいつが妙な動きをしないように、代表して委員長のムラサキ田君にこいつを見張ってもらうことにしよう。異議はないね? はい、決定ー」
「お、おい、ちょっと待て!!」
それを聞いて、柴田さんが慌てたように口を出した。
「なんで俺が!?」
「だって実行委員長だろ? 責任者だろ? おまけにこの学校一番くわしいのおまえだから、逃げてもすぐ捕まえられるし。適任だと思うが? ……あ、そうそう、もしこいつから目離したら、ペナルティとして俺に千円払うこと。これも決定ね」
戸田さんは一人でどんどん決めて行ってしまう。
「だから、どうしておまえに千円も払わにゃならんのだ!?」
「なー、おまえら! ムラサキ田君が木野の奴から目離すよーなコトがあったら、すぐ俺に言ってくれや。ふんだくった千円で何かおごってやるから」
「あのなー!!」
激昂する柴田さんをよそに、他の面々はOKサインを出した。そして何故か、うやむやのうちに僕も戸田さんと大江さんを見張る役にさせられてしまったのだった。
みんな教室のドアの前に群がっていた。柴田さんが戸口にふさがって人を入れないようにしていたが、誰もが呆然としてただ立ちすくんでいるように見えた。僕は人垣を掻き分け、中を覗き見た。
生臭い匂いがした。
県総祭準備のために、片付けられてガランとした教室。
その、真ん中に。
たった昨日まで菅原さんだったものがあった。
倒れて──あの赤いのは──頭を、割られて、る?
それを正確に認識したとたん、吐き気が僕を襲った。
「嘘、だろ?」
僕の後ろで、上月さんがうめくような声を上げた。
「嘘や冗談であんな風になれるか」
と、ふらりと戸田さんが柴田さんの横をすり抜けて中に入って行った。
「お、おい! どうする気だ!?」
「死体を見ときたい」
「やめろ。これは殺人なんだぞ! 勝手なことをするな!」
戸田さんの足が止まった。後ろ姿のまま、言う。
「ムラサキ田。おまえ、自分の言ったイミ判ってんのか?」
「なに……?」
「確かに、こいつぁどう見たって殺人だ。しかし、ここは外から入れない、中からも出られない孤立空間だ。なら、どうしたってこの中に犯人がいる──ってことになるじゃねェか」
一同に動揺の色が走った。柴田さんさえうろたえた。その隙に、戸田さんはさっさと死体に近づいて行き、その脇にしゃがみこんだ。そのまま戸田さんは黙祷するようにしばらく目を閉じ、じっとしていた。
「暗いな。……誰か、ライト貸してくれ」
戸田さんにライトを差し出したのは、三沢さんだった。
「さんきゅ。──おまえ、平気なのか?」
「平気じゃないよ。だけど、記録は録っとくべきだろ」
見ると、三沢さんは片手に小型カメラを持っている。
「このカメラのバッテリーは、まだ十分あるはずだ。……でも……」
三沢さんは、少しだけ声を震わせた。
「昨日まで──つい昨日まで生きてた奴が、こんな姿になってんのを見ると──やっぱ精神的ダメージきついな」
「……同感だ」
口調こそ落ち着いているものの、戸田さんの表情は能面のように硬く──その下に、友人を亡くした哀しみがうっすらと透けて見えた。
戸田さんはぎこちなくライトを点けようとしたが、点かなかった。彼は首を少しかしげ、スイッチをいじったり電球を覗き込んだりしていたが、やがて電池入れのフタを外した。単一の乾電池が四個、転がり出た。電池の+-がバラバラの状態で入っていたらしい。点かないはずだ。
「どうかしたか?」
柴田さんが、戸田さんの後ろから近づいて来た。いや、何でもない、と戸田さんは上の空で答え、少し辺りを見まわすしぐさをした。それから初めて柴田さんがいるのに気づいたように、
「あれ、ムラサキ田君、現場保存すんじゃなかったの?」
「ああ。証拠隠滅とかされちゃ、かなわないからな」
「するかよ」
僕は恐る恐る戸田さん達に近づき、今度はもっと近くから現場を覗き見た。菅原さんの死体は、右側の後頭部をめった打ちにされていた。頭蓋骨が割れ、中身が見えている。再び襲ってきた吐き気を僕は何とかこらえた。──戸田さんはどうしてこんな凄惨な場面を平気な顔して見てられるんだ?
僕は死体から目をそらした。死体の周りには何も落ちていない。凶器らしいものも見当たらない。……何も? あれ?
何となく感じた違和感。さっき目を覚ました時と同じように、何か足りないような感じがする。何だろう? しかし、またしても僕の脳味噌は、その正体を教えてくれなかった。僕はキョロキョロとそこら中を見まわしてそれが何か探そうとしたが、柴田さんが素足にスニーカーを履いてるとか、三沢さんの口元にニキビがあるとか、そんなくだらないことしか目に入らなかった。
「見ろ!」
突然、柴田さんが叫んだ。死体の手元を指差している。
投げ出された左手に、何かが握られている。髪の毛のようだ。金色に近いほど薄い色の、癖のある髪の毛。そして、死体の右手は、血で汚れて──床に、血で書いた線が残っていた。線は集まって、カタカナ文字を作っている。
──「キノ」。
全員の眼が、木野さんの方を向いた。
木野さんは、幾分青ざめた表情で視線の中心に立っていた。
「俺、だと?」
笑ったように見えた。が、ただ顔を引きつらせただけだったのかも知れない。柴田さんがつかつかと近寄った。
「初対面の俺達には、菅原を殺す動機はない。可能性があるのは、同じ学校のおまえらだけだ。そして、……ここに証拠もある」
「俺じゃねえ!!」
木野さんは吼えた。
「じゃあこれは何だ!?」
柴田さんはいきなり木野さんの髪をつかみ、何本かむしり取った。その髪の毛──死体の手に握られていたのと同じ色だ──を目の前につきつける。
「こんな髪の毛してんのは、この中でおまえだけだ! 茶髪の奴はいくらでもいるが、こんな金色の毛なんていやしないだろうが!!」
明智さんも上月さんも、髪を染めている。でも明智さんの髪は長いからすぐ見分けられるし、上月さんは金髪と言うより赤毛と言った方がいい色だ。何よりも、この独特の癖っ毛は木野さんのものとしか考えられない。
「それに、ダイイング・メッセージもあるね」
三沢さんが付け加えた。
「死に際の伝言。死ぬ前に、何とか犯人の手がかりを示そうとして書いた血文字。暗くて判らなかったのかな? 結構はっきり残ってるね」
「でも、俺はやってない! 俺にだって菅原殺す理由なんかねえよ!! 第一、俺は菅原が抜け出したことすら知らねーで寝てたんだぞ!! アリバイと言う点だったら……」
木野さんは鋭い目で僕らを見まわした。
「……みんな一緒じゃねェか」
一気に空間が静まり返った。
その時、僕は戸田さんが額に手を当て、一心に何か考えているのに気づいた。彼だけが、この緊迫した空間を離れて別の場所にいるかのように見えた。
「アリバイなんか問題じゃないだろう。何度も言うが、俺達は初対面の菅原を殺す動機なんかないんだ」
「俺だってないって!! 大体俺は……」
「──木野」
不意に、戸田さんが木野さんの名を呼んだ。その声は決して大きくはなかったが、ぴしりとムチのように強く鼓膜を叩いた。僕らは戸田さんを振り返った。
戸田さんはゆっくり顔を上げた。その眼に、あの不敵なまでの輝きが戻って来ている。
「残念ながら、この場の証拠はどうやらおまえを向いてる。警察が来るまでおとなしくしといた方が得策だぜ、木野」
「で、でも……」
戸田さんは、にぱぁ、と笑った。
「そこで、だ。こいつが妙な動きをしないように、代表して委員長のムラサキ田君にこいつを見張ってもらうことにしよう。異議はないね? はい、決定ー」
「お、おい、ちょっと待て!!」
それを聞いて、柴田さんが慌てたように口を出した。
「なんで俺が!?」
「だって実行委員長だろ? 責任者だろ? おまけにこの学校一番くわしいのおまえだから、逃げてもすぐ捕まえられるし。適任だと思うが? ……あ、そうそう、もしこいつから目離したら、ペナルティとして俺に千円払うこと。これも決定ね」
戸田さんは一人でどんどん決めて行ってしまう。
「だから、どうしておまえに千円も払わにゃならんのだ!?」
「なー、おまえら! ムラサキ田君が木野の奴から目離すよーなコトがあったら、すぐ俺に言ってくれや。ふんだくった千円で何かおごってやるから」
「あのなー!!」
激昂する柴田さんをよそに、他の面々はOKサインを出した。そして何故か、うやむやのうちに僕も戸田さんと大江さんを見張る役にさせられてしまったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
寄生虫の復讐 ~美咲の冷徹な一刺し~
スカッと文庫
ミステリー
「お前みたいな寄生虫はゴミだ」
10年尽くした夫・雅也から突きつけられたのは、離婚届と不倫相手。
彼は知らない。私が家を飛び出した「サカモト・ホールディングス」の令嬢であることを。
そして明日、彼が人生を賭けて挑む調印式の相手が、私の実父であることを。
どん底に叩き落とされたサレ妻による、容赦なき「経済的破滅」の復讐劇。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる