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高校時代

僕だって

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春樹が大人になってしまった。
いつも一緒だったのに。

僕を置いて…。


この頃の僕は、もうAV女優を見ても性的興奮を味わうことは無くなっていた。
完全に、春樹のオスの一面の虜になっていたからだ。

もしかしたら、ゲイなのかもしれない…。
そう思うこともあったが、今まで春樹以外でそんな風に思ったこともなかったし、過去に好きになった子はみんな女の子だった。


春樹のオスの顔が好きだ、ということは自覚し、受け入れることができた。

でも、どうしても、春樹に彼女ができたということが受け入れられない自分がいた。
あの顔を、快楽に乱れた姿を、堂々と晒していること、そしてそれを堂々と眺められることが、どうしても許せなかった。


僕だけ置いてきぼりなのが許せなかった。


近所の公園が、夜はハッテン場になっているという噂を小耳に挟んだ。
半信半疑のまま、僕は夜中にこっそり家を抜け出した。


―――


そこは、昼間とは雰囲気が全く違っていた。

木陰で絡み合う人影。
ベンチで甘い視線を交わし、重なり合う人影。

そして…そこかしこで、肌と肌がぶつかり合う音と、低い呻き声が微かに響いていた。

AVなんかとは比べ物にならない、生々しく刺激的な光景が、そこには広がっていた。
胸の鼓動がどんどん速くなっていくのを感じながら、目が離せなくなっていた。


公園中を眺めながら固まって棒立ちしていた僕の肩を、誰かがトントンと叩いた。

ビクッと体が跳ね上がり、恐る恐る振り返る。
そこには、若いサラリーマン風の男性が立っていた。


「キミ、初めてでしょ?若いからすごく目立ってる。こっちにおいで」


言われるがまま、僕はその男性に付いて行った。
そこは木陰の芝生で、周りとは少し距離を置いて、2人で並んで腰を下ろす。


「ここに来たってことは、そーゆーことでしょ?」


曖昧な言い回しをしながら、男は僕の股間に手を伸ばし、さわさわと品定めをするようにまさぐってきた。

初めて人に触れられた、という性的好奇心のゾクゾク感。
同時に、不快感からくるゾワゾワ感…。
なんとも言えない感覚に襲われ、身動きが取れなくなった。
それでも、直接的な刺激は僕の体を反応させてしまう。

徐々に硬くなっていくそれをしっかりと握り、先端を親指で擦られた。

いつも春樹がしているのと一緒、それを真似て僕がしているのと同じように…。


―――


目を瞑ると、そこには目を爛々と輝かせて、息を荒くした春樹がいた。
そして、僕の硬くなった先端を親指でスリスリと擦るんだ。
どんどん硬くなっていくそれを、ズボンを脱がして、夜の少しひんやりとした空気に晒していく。
締め付けから解放されたそれは、自由を求めて硬く反り返り、更なる刺激を求めてヒクヒクと動いていた。

「ここが好きなの?」

そう言って、先走りを親指でヌルヌルと塗りこまれる。

「好き…気持ちいい…」

僕は答えた。

「じゃあ、もっと気持ちよくしてあげなきゃね」

そっと、体を倒される。
直後、生暖かくてヌルヌルとした何かが、僕の硬くなった欲望の塊を覆っていった。
それが口の中であると瞬時に気が付いた。

じゅぶじゅぶと音を立てながら上下に動き、先端の小さな穴を舌先でつつかれる。

「あぁっ…!はぁ、はぁ、はぁ…」

思わず声が漏れると、その刺激は一層強さを増していった。

「春樹っ、やばっ、もう出るっ…!ダメっ!!」

あまりの気持ちよさに耐えきれず、僕はそのまま口の中に吐精してしまった。

快感の余韻を味わいながら、肩を揺らして息をする。
これが、フェラ…か。
めっちゃ気持ちいい…。

そんな時だった。


「ねぇ、『ハルキ』って誰のこと?」


―――


目を開けると、そこにはさっき出会った見知らぬ男。


「ねぇ、『ハルキ』って好きな子の名前?」


男は、白く汚れた口元を拭いつつ、ニヤニヤしながら続けた。

「ハルキに相手にされなくてここに来た、って訳か。そうだろ?」

「それで、オジサンのフェラを、そのハルキくんにしてもらってると思いながら感じてたんだ?」

「わー、ショックだなぁ。オジサン、頑張って損しちゃったよ」


どれもこれも聞きたくないことばかり。
認めたくないことばかり。
それを、この男はズケズケと言ってのける。

「違う!」と言い返せない自分が情けない。

情けないながらも、精一杯の勇気を振り絞って、座り込んでいる男の肩を思いっきり蹴飛ばした。

何やら怒声が聞こえたが、無視して全力で公園から走って逃げた。


―――


自室に戻ると、怒りと、情けなさと、悔しさで、頭がおかしくなりそうだった。

それでも、あの快感が蘇る。

それもまた、悔しくて悔しくて、自分が腹立たしい。


…でも、確かにあの時、僕の目の前には興奮して爛々と目を輝かせた春樹がいた。
その春樹が、俯いて、僕の硬く反り立つ肉棒を咥えて、じゅるじゅると音を立てて上下に頭を振っていた。
自分と同じく、僕の性感帯も鈴口なんだと思い込んで、舌先でちょんちょんと刺激を与えてくれた。

…最高に、気持ちが良かった。


確かにアレは、春樹だった。
春樹が僕の初めてを奪ったんだ。


そう言い聞かせながら眠りにつこうにも、冴えてしまった頭がなかなか冷えない。

窓の外がうっすらと白んできたのを確認した頃、やっと瞼が重く感じられた。
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