カゴの中のツバサ

九十九光

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#5-1

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 分厚い雲の上に太陽が昇り、黒色に近かった空を濁った白に変色させた。名古屋市のアスファルトには、昨夜から続く豪雨が力強く打ち付けてきていた。
 ツバサが気付いたころには、部屋の中はカーテンと窓越しに弱々しい光が入り込んできていた。彼が逃げ込むようにくるまっていた布団の中で、スマートフォンを手にして時刻を確認すると、ホーム画面のデジタル時計は午前六時を少し過ぎたことを示し、その下の日付は、『WED,MAY17』と表示されていた。あれだけショッキングなことが起きたとしても、彼の体内時計は普段通りの生活をするように指示を出してくる。
 布団から這い出たツバサは、部屋のふすまを開けて母の寝室になり果てているリビングに入った。彼女はどこにもいなかった。いつも通り、始発電車で仕事に向かったと思われる。
 キッチンのテーブルには、袋に入った食パンが置いてある。ツバサはそれを一枚取り出し、冷蔵庫からジャムの瓶を持ってくると、使いすぎないように薄く塗りつけ、椅子に座ることもなくたったまま口に運んだ。そうして簡素な朝食を終えると、また自分の部屋に戻り、パジャマを脱いで制服に着替える。その後、普段は夜のうちに済ませる教科書類の準備をし、鍵をかけて自宅を出た。
 依然として、外は雨天だった。
 雨の日は気持ちが落ち込む人が多くなるという話を聞いたことがあるが、実際にそうなるものなのだと、大人に混じって地下鉄に乗りこむツバサは実感した。なんだかパッとしない憂鬱な心持ちの中に、昨夜突然送られてきた艶めかしいカナコの姿だけがはっきりと見えてくる。下腹のあたりにも、昨夜ほどひどくはないが説明できない重量感があった。頭が何も考えない時がある、いつもの自分らしくない感覚が強かった。周囲の大人たちが一様にそろって元気そうに見えてくる。別に表情だけでそんなことが分かるわけはないのだが、ツバサには、黒いスーツ姿の大人が悩みの一つなく毎日を幸せに過ごしているように見えた。
 学校を休みたいという気持ちはあったが、本当に休んでしまおうとは思わなかった。欠席連絡の電話は保護者がしないと効果をなさない。かといって母親には頼れなかった。ツバサは以前一度だけ、風邪気味で欠席の連絡をしてほしいと、電話で頼んだことがあった。だがその時彼の母親は、「どうせ仮病なんでしょ。行きなさい。」と、その要求を冷たくあしらった。そして無理をして学校に行ったところ、体育の授業中に倒れこみ、「どうしてインフルエンザなのに学校来たの⁉」と、保健室の先生にきつく叱られることになった。そして急遽迎えに来た母親からは、「余計な手間とらせるんじゃないわよ!」と、さらに理不尽に責め立てられることになった。それ以来ツバサは、明らかに体調不良になっても、それを押し殺
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