カゴの中のツバサ

九十九光

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#7-1

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 ツバサとカナコの関係は元通りに修復された。
 二人は今まで通り、星ヶ丘の駅で鉢合わせれば自販機のジュース片手に他愛もない会話をし、カナコからのLINEも、傍から見ればどうということのない彼女の日常を切り抜いた話が大多数を占めた。ツバサもそんなカナコとのおしゃべりを心から楽しんでいた。
 例の裸画像誤送信事件については、二人とも一切触れることはなかった。両者とも、あの話はなかったことのように振る舞い、ツバサはあの話を再燃させないように毎日の会話を楽しんでいた。
 だがツバサには、事件前から大きく変わったことが二つ生まれていた。
 一つ目は、ツバサがカナコへ話を振る回数が異常に増えたこと。それも勉強に関する話題ばかりではなく、ツバサ自身が動画投稿サイトで見つけ出した、アニメやゲームに関する話が出始めたのだ。『HOPE・ADDRESS っていうアニメを最近見つけたんだけど、すごく面白かったよ! 一度見てみてよ!』といったような文面が、LINE上で以前と比べて多くなったのだ。星ヶ丘のホームで話すときも、少し言葉足らずではあるが、非常ににこやかに、必死に自分の考えをカナコに伝えようと努力していた。
 二つ目は、ツバサがカナコ以外に話をする回数が、カナコと出会う以前の量に戻ったこと。授業中に手を挙げたり質問をしたりすることはなくなり、公共交通機関で社会的弱者に席を譲ることもしなくなった。カナコと話をする時以外、まるで表情の変化がないということもまったく珍しくなかった。
 そしてツバサ自身が、これら自らの変化に気がついたのは、六月上旬のことだった。
『ツバサ君前より笑いながら話すこと多くなったね』
 いつものように誰も待っていない自宅に着いたころ、彼のスマートフォンに、このような文面のメッセージがカナコから届いていた。
 僕、そんなに人と話すの、好きになったのかな?
 それ以来ツバサの中で、誰かと話をする時の表情に対する意識というものが芽生えてきた。
 しかし、いざカナコ以外の人と会話をしようとしてみると、そもそも自分がカナコ以外と話をしないことに気づかされた。すれ違った人に「おはようございます!」と言おうとすると、それが喉から出る直前で、どうしても声が出ないことが多い。学校や塾での質問も、以前に戻ってまったくしなくなり、出てきた疑問はすべてカナコにぶつけて解決していた。自分の行動をどれだけ冷静に考えてみても、カナコ以外の人との会話を積極的に行うツバサ
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