カゴの中のツバサ

九十九光

文字の大きさ
38 / 81

#7-2

しおりを挟む
はどこにもいなかった。
 ツバサには分からなかった。
 どうして今までできていたはずのことが、急にできなくなったんだろう。そして、どうしてカナコお姉ちゃんとだけ、あんなにも楽しく話をすることができるのだろうか。
 ツバサは思考の蜘蛛の巣にとらわれてしまった。授業中の疑問やカナコ以外の人々の反応すべてが、カナコに対する不思議な気持ちと変化の前では、まるで道端で錆び切ったヘアピンのように無価値なものに感じられてしまう。まったく気にならないわけではないが、どんな反応が返ってこようと、それをいちいち反芻して記憶にとどめない自分がいた。
 もっと長く、お姉ちゃんと話がしたい。もっと長く、お姉ちゃんの傍にいたい。
 ツバサは思考の蜘蛛の巣から見た自分に、そんな考えに固執している自分を見つけた。
 そして6月も終わりを迎えようとするころには、カナコにも変化が訪れた。
 それまでゲームセンターでのUFOキャッチャーとの格闘の日々や、美味しいスイーツの紹介のような話題の中に、恋愛小説の紹介が出てきたのだ。
『この あなたとシンクロするという摩訶不思議な現象 って本 めちゃくちゃよかったよ~♪ 今度持ってくるから、読んでみてよ~☆』
 ある日突然、ツバサがいつものように自宅学習をしている最中に、一冊の本の写真とともに、こんな文章がLINEに流れてきた。絵の具のような色合いで、一本の木の下で男女らしき人影が抱き合う様が描かれた表紙の本だった。今までツバサが見てきた本の中には、このようなデザインを表紙に採用する本はなかった。
そして翌日、ツバサは星ヶ丘のホームでその本をカナコから手渡されたのだ。
「ツバサ君、この前新しい本がほしいって言ってたでしょ? ツバサ君にプレゼント。」
 ツバサは困惑しながらも、笑顔でそう言うカナコから問題の本を受け取った。
 ツバサは確かに、以前新しい本がほしいと、何の気なしに口にしたことはあった。だがこの『あなたとシンクロするという摩訶不思議な現象』という本は、明らかに自分が知っている傾向の本とは大きく違う内容だということを、ツバサはページを開かずとも感じ取っていた。出版社とレーベルも、今までツバサが読んできた、教科書や学級文庫などのどの本にも当てはまらなかった。
 家に帰ったツバサが本を開いてみると、この本が恋愛小説だということが分かった。複数組の男女のいくつものシチュエーションの恋愛模様がオムニバス形式で描かれており、そのすべてが、身分の違いや周囲の反対、転勤などの社会的な障害を乗り越えて恋を成就させ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...