カゴの中のツバサ

九十九光

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#15ー1

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 駕籠可南子の家に家宅捜索が入った同時刻。ツバサと駕籠加奈子は、愛知県の西隣にある三重県の桑名市内の住宅地を歩いていた。
 名古屋駅から五十分ほどの駅から歩くことになるそこは、遠くにビルが見えるといったこともなく、街路灯に照らされた空き地や畑がまばらに点在する新興住宅地だった。都心へのアクセスの悪さからか、安く浮いた土地代を家本体に回す家庭が多いらしく、新しい家でも、庭やテラス、外壁やウッドデッキなど、持ち主のこだわりがよくわかる、個性的な家が多く並んでいる。
「本当によかったの……、カナコおねえちゃん。」
 ツバサが手を握るカナコに話しかける。服装はA学院小学校の制服から、無地のTシャツに青いジーンズ、白いスニーカーに黒いキャップ姿に変わっている。色白い首筋には、カナコからもらった鳥の羽を模した革紐のネックレスが大事そうにかけられていた。
「大丈夫だって。あたしのパパもママも、仕事ばっかりでほとんど家には帰らないから。」
 数時間前の三者面談の時よりも明るさを取り戻しているツバサに、カナコはにこやかに笑いかけて応えた。ヘアスタイルは白いシュシュによるポニーテールといつも通りだったが、首から下は、アパレルブランドのロゴが入ったTシャツの上にジーンズ生地のジャケットを羽織り、黒いスキニーパンツに黒いレディースサンダル姿になっていた。首にはツバサと同じデザインの革紐のネックレスがかけられ、一目見ただけでは平日の女子高生とは思えない風貌に変わっていた。
「でもよく間に合ったね。僕の服から、定期券で見つからないようにってICカードまで新しく用意して……。」
「昔からこういう手際のよさだけはよかったからね。」
 カナコの顔はどこか自慢げで、ツバサにはクスリと笑っているように見えた。
 それを見上げるツバサの表情は、どこか浮かない様子でもあった。自分が家出を、それもその場の感情だけで、恋をしている女の人の家に行くなんて。ついこの間までの自分には想像もつかなかった。だがそれが、とてもドラマチックで、非日常的で、心のどこかで自分が望んでいたことでもあることを認識していた。不安らしい不安も、どこを探しても見つからないはずだった。これから始まる、四六時中大好きな人と一緒に暮らすという未来の前では、見つかるわけがないはずだった。それがなぜか今は、とても重い罪悪感をその身に覚えている自分をツバサは感じていた。
 カナコの家は、駅から歩いて十五分ほどの場所にあった。周囲はほかの一軒家やアパート
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