Night Sky

九十九光

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僕らは泥を這い蹲るものー6

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 いきなりナイフを取り上げるのはフィジカルの問題上不可能。ダメージを与えて弱らせたところでナイフを取り上げる作戦に切り替えたのだ。

 速度に乗った拳を受けて、頬の内側と鼻から血を流す雨。そこに遊大が進行方向を急転換し、膝蹴りを雨に叩き込む。

 それでもナイフを握る手の力を緩めない雨。熱くなると思考が乱暴になる。彼は遊大をそう評価した。

 雨は自身のユニゾンで一気に地下まで潜る。遊大も最速で追いかけるために、床を材料の状態まで時間逆行させ、穴を開けて追いかける。

 到達先は支部の書庫だった。廊下より狭く、入り組んだ構造に、遊大は翼を消し、走って追いかけざるを得ない。

 地下にとどまるはずがないと感じた遊大は、とにかく上階へと向かって走っていく。そして本棚で構成された通路を通ろうとしたその時だった。

 左側の本棚が突然遊大の方向に倒れてきた。向こう側にいた雨が倒してきたのだ。

 狭い空間で間に合うはずもなく、遊大は金属製のラックと大量の分厚い本の下敷きになった。

「最初にやったのは君だからな!」

 雨が捨て台詞を吐いて屋内通路に続く出口方面に向かう。

 生き埋めにされた遊大は、ラックを材料の鉄板に、本を材料の木のチップに戻して脱出した。

 遊大は急いで上階に向かう。雨が上下移動を繰り返し、遊大に負担をかけていることはうっすら分かっていた。ただ、時間逆行は使えば使うほど体に疲れが溜まるため、時間をかけると遊大が不利になる。逆行速度は酷使し続けたお陰が、確実に短縮されている。壁や天井を材料に戻して追いかける方法は、利にかなっているが厳しかった。

 それでも遊大は、階段を無視して書庫の床や天井に穴を開けて雨を追いかける。遊大が追いついた時には、雨は書庫の屋内ゲートをIDカードを通さず通過していた。

 不正退場を検知してゲートが警報音を鳴らす。すぐそばの守衛室にいた警備員が様子を見に来た時には、遊大がゲートを蹴破って出ていくのが見えただけだった。
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