Night Sky

九十九光

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ドキドキしたいじゃんか誰だってー3

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「お前の感もあながち間違いではないかもな。こういう話には、男なら誰しもが惹かれるロマンがある。」

 ロマン。その一言で片づけられる問題ならいいが。

「という話をこないだの調整日にしたんですよ」

 直近の日曜、下北沢の町中を巡回する遊大と文活は、引率の氷助にその話をした。手持ちぶさたを解消するための何気ない会話のつもりだった。

「灰色仁さんがくれた本……。そういえばこないだ、灰色さんのニュースを新聞のちっちゃい記事で見たな」

 氷助は仁に関する新聞記事を思い出しながら語り出す。

「たしか、長崎の一般中等部で講演会をして、その記念に愛読書を1冊図書室に寄贈したって話」

「……! その寄贈した本って、もしかして、歴史は消えないでしたか!」

「タイトルまでは覚えてないけど、中等部の図書委員と一緒にその本を持って写ってる写真が載ってたな。黒と赤のデザインの表紙で、白い字でタイトルが書かれてたよ」

 やはり歴史は消えないだった。

 遊大と文活はそう考えた。

「もしかして、灰色さんが変な思想に取り憑かれてあの本を不正に印刷して全国にばら蒔いてると思った? さすがにそれはないでしょ。なんてったって、日本に5人しかいない特級兵士の一人だよ。そんなバカな真似しないよ」

 とある公園の横を通りすぎている時に、氷助は少しあきれた様子を示しながら自分なりの正論をぶつける。

 その時だった。

 真横の公園から突如人の叫び声が聞こえる。何事かと思って3人が公園を見ると、大勢の人間が中学生くらいの男女3人に殴ったり噛みついたりして襲いかかっていた。

「……! 2人とも行くよ!」

 氷助の合図で遊大と文活は公園に飛び込む。

「チュギョ、イルボニン!」

「チョルデロ ヨンソハヂ アンヌンダ!」

 群衆たちは遊大たちが聞いたことのない言語で何かを叫んでいる。

 遊大は1人の女子に襲いかかる者たちを蹴り飛ばし、彼女を公園の外へと引きずる。文活は男子2人を襲う者たちを自身のユニゾンで関節ごとに分解し、男子たちを逃がす。全員が公園の外へ出たのを確認すると、氷助は公園を分厚い氷の壁で囲い、群衆が外へ出られないようにした。
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