Night Sky

九十九光

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僕らの革命前夜ー4

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「いや、こういうのではなくてな。もっとこう、あるだろ? 武器よさらばとか」

「なかったんだ」

 人陰は文活の言葉を一蹴した。

「戦争を題材とした本や性描写のある本は軒並み存在しないんだ。小説ってそういう描写多いだろ。だからこういう本しか残らなかったんだと思う。試しに聞いてみたよ。はだしのゲンって知ってますかって。聞いた店員全員が知らないと答えた」

 遊大は創作物まで、笑顔と幸せで溢れたものにしたのか。

 そう感じた一同の空気は急激に冷え込んだ。

「……! アニメ見ようアニメ!」

 小麦が空気を一変させるために話を反らす。

「とっくにそれも試したよ。午前中やゴールデンタイムに流れるアニメは、しまじろうみたいな知育番組ばかり。深夜に流れる残酷なアニメは軒並み規制か抹消のどれかだ」

「カートゥーンネットワークにアクセスしよ! そこならトムとジェリーくらいやってるでしょ!」

 太陽の意見を押しきって、小麦が大樹の部屋でカートゥーンネットワークとの金のかからない契約を結ぶ。そして早速番組表を確認した。

 きかんしゃトーマス、ドロシーとオズの魔法使い、プリンセスユニキャットなど、ここも暴力描写のない作品ばかりだった。アクションアニメは一切なし。期待していたトムとジェリーも存在しない。

「どこまでクソな世界なんだぁ!」

 颯天がテレビに向かってミサイルを撃とうとするのを男子全員が止めた。

 この理想郷は12人にとって、息苦しい場所だった。

 悲劇的、暴力的な世界は創作だろうがなんだろうが一切存在しない。ケガをする恐れのある格闘技のスポーツも存在しない。街を歩けば多くの一般人が、有名人を見つけた時のような羨望の眼差しを見せてくる。変装である程度ごまかせたが、それができないほど異質な見た目をした大樹は、しまいには外に出ることすら嫌がるようになった。
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