和製切り裂きジャック

九十九光

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#4-1

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#4(一人称)


「で、今うちのパパ、橋本って人の愚痴言いながママとお酒飲んでる」
 珍しく名古屋で雪が降った(積もってはいない)一月二十四日の夜。私はリビングのソファに寝転がりながら、電話の向こうの大輔君にうちの状況を報告した。
「じゃあもう警察はうちに来ない……?」
 電話越しに聞こえる大輔君の声は疲れきっているように聞こえた。そりゃまあ、人生で初めて見た死体が腸丸見えの他殺体だったら、一生消えないトラウマにもなるだろう。代われるものなら代わってやりたいものだ(同情で代わってやりたいというより、本物の死体を見てみたいだけなのだが)。
「大丈夫じゃないの? 刑事ドラマの主役みたいに用心深い人がいない限り、もう警察が来ることはないでしょ」
 私は大輔君の悩みに対して、めちゃくちゃフランクに返事をした。
 電話は元々、私のパパが警察の人間だと知っている大輔君が、これ以上警察がうちに来るかどうかわからないか、と聞いてきたのがはじまりだった。そんなこと聞かれても私には断言はできないが、ある程度の予想は立てられる。感情任せに飲んだパパは誰かに言ってはいけない捜査状況を一部口走ってしまうという、警察官として致命的な欠点があるのだ。今夜も、「俺が第一発見者はどうだって言ったら、あいつ偉そうにアリバイがあるって言いやがって……!」と、泣き上戸になりながらママに訴えていた。とにかく、犯行時刻の時のテレビ番組の内容とかいう、家族の介入なしにしっかりと成り立つアリバイがあるなら、これ以上の詮索はないと考えていいだろう。
「それより、大輔君。今日の中日の夕刊読んだ?」
「あ……。うち、朝日なんだけど……」
「え? そうなの?」
 夕刊という言葉で察してほしいが、中日とは、愛知県を含めた中部地方を中心に売り込みをする、中日新聞というブロック紙のことである。ニューヨークタイムズのように一定の地域にのみ出回っている新聞であり、野球チームの中日ドラゴンズの由来も、このチームの運営母体がこの新聞を扱う中日新聞社だからだったりする。
 そんな中日新聞の今日の夕刊には、千種区(今さらだがこれで『ちくさ』と読む)のとある私立中学の下校時刻が一時間早まったとかいうニュースとともに、一社(これで『いっしゃ』と読む)の死体遺棄事件の速報が載っていた。それも現場の様子や被害の情報まで事細かに。新聞社のビルと警察署が車で五分くらいの距離にあるおかげだろう。
「とにかく聞いてよ、大輔くーん。今日の中日の一面の、あの事件の記事の見出しがさー」
 私は頬と肩でスマホを押さえつけながら新聞紙を持ち上げて、問題の見出しを嬉々とし
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