和製切り裂きジャック

九十九光

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#11ー1

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#11(三人称)


 愛知県名古屋市名東区藤が丘。市の最東部に位置し、築二、三十年の古い家や団地がざらにある場所。最近になって新興住宅地と高架下の飲食店が現れるようになったが、県外からの観光客には隣の長久手市へのアクセスに便利なリニアモーターカーの駅くらいしかない。そんな町だった。
 三月三日の午後九時頃。この町のとあるアパートの一室で、一人の女性の他殺体が見つかった。橋本楓という、二十代の耳の聞こえないろうあ者の女性だった。
 彼女は事件現場である四階建ての建物の一階の部屋で、実の兄である県警の捜査一課刑事、橋本隆と同居していた。遺体の第一発見者も、警察への通報者も彼だった。
 橋本隆はその後行われた取り調べには応じなかった。正確にはそれができなかった。駆けつけた彼の同業者たちが質問をしても、終始判読不能な言葉を泣きながら叫び続けるだけで、まるで事情聴取にならなかったのだ。通報前に電話した彼の上司の指示でかろうじて警察は呼べたが、それ以上のことができる精神状態ではなかったらしかった。
 駆けつけた捜査員たちが目にしたものは、現金がどこにもないリビングだった。そこにあった小さな洋風タンスをひっくり返したように、通帳と印鑑、派出所時代の制服姿の橋本隆と楓が写るツーショット写真が入った写真立てなどが転がっていた。だが彼女の財布も、タンスに入っているはずの現金も、部屋のどこを探しても見つからなかった。室内外の違いはあるが、和製切り裂きジャックの手口と一致していた。
 また、部屋の鍵が彼女の鞄から見つかり、ベランダからは人の出入りの形跡が見つからなかった。ここから捜査員たちは、犯人は玄関から侵入し、そこからドアの施錠をしないで現場を離れたと予想した。
 そして楓の遺体のほうも、今までの和製切り裂きジャックの犯行同様、凄惨な形で遺棄されていた。
 彼女の遺体は、普段彼女が寝室にしている和室内で、金属製のハンガーラックからワイシャツで首を吊られ、口からだらしなく血の混じった唾液の跡を作っている状態で見つかった。腹部はみぞおちから下腹部まで縦一直線に切り裂かれ、赤黒く生臭い臓物を畳とその上に散乱するスーツやコートの上に垂らすその様子は、大衆の面前で解体されたアンコウのようだった。衣服は、ズボンと靴下は手つかずのままだったが、腹を裂くのに邪魔だった上のシャツとブラジャーは縦に裂かれていた。彼女の服と白い肌、室内の床や壁は、彼女自身の血で赤と黒に染められていた。両目は力なく開いており、目を凝らしている様子もなく畳に落ちた自分の肝臓か膵臓を見下ろしていた。
 そして彼女が袖を通したままだった、前が破かれているシャツの裏側に、次のように記されている紙がホチキスで留められていた。
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