和製切り裂きジャック

九十九光

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#19ー4

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る楓だった。群衆の一人の女の子は、下半分が割れてなくなった白い花瓶を持っていた。
「おい、何してんだ!」
 隆が慌てて二年生の中をかきわけて、楓のそばに行く。
 大丈夫? 怪我してない?
 家族全員で勉強した手話を使って隆が尋ねると、楓は縦、横という順番で小さく首を振った。体は恐怖で小刻みに震えていた。
 隆のすぐ後ろで、痛いよという声が聞こえてくる。隆が振り返ると、頭の後ろを抑えて泣いている二年生がいた。二年生と六年生の力の差で押し倒されたようだった。
「あー! いけないんだー! ちっちゃい子泣かしたー!」
「藤木の兄ちゃん悪い奴だー! 先生に言ってやろー!」
 教室内の二年生は一斉に隆を指さし、一定のリズムに合わせて声を上げる。
 瞬間、やってしまったと感じた隆は慌てふためいた。そこに割れた花瓶を持つ女の子が言葉を投げかける。
「花瓶割ったのは楓ちゃんだよー。六年生が悪い奴の味方なんかしていいのー?」
 彼女は楓を責めるつもりで言ったのだが、これが隆に事の真相を想像させるカギになった。明確な根拠はなかったが、語尾を伸ばす日常会話のような雰囲気のある発言に、隆は嘘くさいものを感じたのだ。
 本当に花瓶を割ったの?
 隆が今度は別の質問を楓にする。震えが止まらない楓は、怖がっている様子を見せながら首を横に振る。ついでに隆は動揺しながら傍観していたパソコンテイクの男に、肉声で同じ意味の質問をする。男はしどろもどろになりながらも、花瓶を持った子がわざと割ったと説明した。
「どういうことだ、お前ら!」
 不安がなくなった隆が、一転して二年生たちに怒鳴り返す。腕に抱いている楓の震えは収まる気配がなかった。
 一時的に黙り込んだ二年生たちは、この後どうするかという旨を視線で伝えるように、お互いの顔を見つめ合っていた。一見これでいじめっ子集団が八方塞がりになったと思われたが、彼、彼女らにはまだ武器が残っていた。数と強行突破という武器だった。
「先生でもない奴の言うこと信じるのかよ!」
 突然一人の男子生徒が声を上げた。それを皮切りに、二年生たちは次々と反旗の声を上げ始めた。
「悪い六年生だー!」
「花瓶割った奴の味方してるー!」
「いけないんだー!」
「先生に言ってやろー!」
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