和製切り裂きジャック

九十九光

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#25ー1

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#25(一人称)


 五月十八日の午前十一時。
 小雨が降ったりやんだりを繰り返す中途半端な天候の中、愛知県警の覆面パトカー三台が、名古屋市内の高速道路を走っていた。アリの行列のように縦一列になる三台には、捜査一課から派遣された捜査員たちが四人ずつ乗っており、一番前を走る車両の助手席には警部の山下が乗っていた。
「あの……。山下警部」
 その車を運転する若い男性刑事が、隣に座る山下に恐々と声をかけた。一週間前の、湯浅警部補と山下の言い争いの引き金になった男だった。
「不安かい」
 山下はなるべく物腰柔らかくすることを意識して質問した。
「あ……! え……! はい……」
 若手刑事は一瞬驚いた様子を見せてから、素直に自分の本心を上司に伝えた。それを聞く山下の表情は、緊張して内心落ちついていないことを発信していた。
「心配しなくて大丈夫。君は現場を見て勉強することを意識するんだ。何かあっても責任は僕が取る」
 山下は何を見るでもなく正面に視線を向けながら、隣の刑事に声をかけた。それに対して彼は便宜上の返事だけをして、それ以降は運転に集中した。
 山下はどこかで、もし自分が小説の登場人物になったとしても、物語に大きな影響を与える人物にはなれないと考えていた。
 自分はただ単にマニュアルや先輩の教えを踏襲して仕事をこなしているだけであり、同期の湯浅のように心の動きの激しい熱血漢でもなければ、亡くなった橋本のように特異な環境にいた経験もない。優しい両親と素敵な友人に恵まれ、名門校を平均的な学力で卒業し、恩師の勧めで今の仕事を選び、先人が築き上げた仕事のやり方に従い、当時の上司の勧めで試験を受けて警部になっただけ。妻もごく普通の専業主婦で、二人の息子も何事もなく大学に進学した。仕事上で関わった犯罪者たちも、金か異性か若気の至りといった、世界中にありふれている動機を持つ人間だった。だからこそ、こんな普通の人生を送ってきた自分には、壮大な作り話の根幹に関わるようなことはできない。山下は自分のことをそう考えていた。
 だが今日、山下は非常に大きな仕事を成し遂げようとしていた。物語の主要人物になれないはずの自分が、本来ならばその物語の主要人物がやるべき仕事をしようとしていたのだ。
 彼は今日、二人目の和製切り裂きジャックを逮捕するために、つまり、世間を恐怖に陥
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