和製切り裂きジャック

九十九光

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エピローグー4

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いないよ。友達の話も、逆に言えば小暮さん以外、家にあげるような間柄の人はいなかったんだよ。アパートの住人や支援団体の人たちに、自分から話しかけることもしてなかったし。交友関係の狭さはストーカーの典型的な心理特徴だよ」
 この私の解説にさらに補足説明すると、氷川智成は岐阜県美濃加茂市出身のごく普通の青年(周囲曰く。ただし犯罪者の過去について質問すると大抵こういう答えが返ってくる)だった。大の仲良しといった関係の人は少なく、支援団体に入ったのも特殊な物件の大家になったのも、福祉関係の大学を出た流れだと考えられる。本当にどこにでもいる普通の若者でしかなかったが、案外ストーカーはこういう普通の人から現れるものなのかもしれない。ちなみに当の本人は、逮捕後の警察の取り調べでも、容疑は認めたが楓さんを好きになった経緯は一切語らず、「あの男が悪いんだぁ!」を繰り返していたという。そして逮捕から一年後に懲役二十年が言い渡された。
 そのうち私たちが乗る車は、高速を降りて一般道へと入った。『ようこそ信州八ヶ岳 小海市へ』と書かれた、金属製のきれいな看板があぜ道の中に立っており、都会の喧騒とは無縁そうな田園地帯が広がっていた。
 車内のラジオからは、今年流行しているアイドルグループの歌声が流れている。昔流行ったボーカロイド曲のカバーソングだった。この時は、二〇一七年の夏に爆発的な人気を博したという『砂の惑星』という曲が、どこかで聞いたことあるアイドルグループの声で歌われていた。
 車はどんどん山道に入っていき、複数種の木が生い茂る雑木林の中の道に入った。舗装も古く、それに合わせて車の揺れは激しくなり、酔いやすい体質の人間には地獄でしかない道だ。「時間は?」と大輔君が質問してきたので、そういう体質じゃない私は端末をいじりながら、「十一時半ちょっと過ぎたとこ」と答えた。画面の明るさを自動調整モードにしておかないと、木陰を出たり入ったりで画面が見づらい。
 そのうち車は、雑木林ばかりで観光地にもならなさそうな山を抜け、街の中へと入っていった。
 長野県小海市ニュー小海タウンという住所が冗談抜きでまかり通っている街で、三つの限界集落を統合し、その合間にあった山林を含めて宅地開発して生まれた場所だった。
 「写真で見た景色と全然違うんだけど」と、私が驚いていると、「そりゃ、まあ、あれが確か二〇〇三年のやつだったしね」と、横の大輔君も同じような反応をした。
 このニュー小海タウンは、障がい者のためのヘルパー研修センターの建設から始まり、福祉大学、バリアフリー重視の住居に商業施設、果ては各種障がい者の各症状の軽減治療の研究施設などが順番にできあがって生まれた、障がい者の暮らしやすさを徹底的に追求した、国際的にも珍しい街である。人口の四割が日本全国から集まった各種障がい者であり、市と県の保護に各種バリアフリー設計、街の中と長野市直通の高速バスで行く仕事先で、彼、彼女らは何一つ不自由や負い目を感じることなく生活できるという触れ込みだ。
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