9 / 214
♯1ー7
しおりを挟む
「……。あなた、人と仲良くするの、好きじゃないでしょ? 人間不信になってる子の担任なら、新貝先生みたいに一人一人と密に接するような先生より、一定の距離を保とうとするあなたみたいな先生のほうがよく思われるかもって、山田先生が言ったのよ」
なるほど、言われてみればそうかもしれない。私自身、学生時代は接点がない部活や専門教科以外でもやたらと声をかけてくる先生より、必要最低限のコミュニケーションだけに留めてくれる先生のほうが好印象だった。その原理で私がこの問題だらけの被災者の担任に選ばれたというわけか。嬉しくもなんともないし、その発言の前にあった空白のせいで、その場で取ってつけた感じを受ける。
「それじゃ、一年間、しっかりやるのよ。どのみち、いつか自分の後輩に仕事教えなくちゃいけなくなるんだから、腹くくりなさい」
小林先生は私に向かって、(本人の感覚では)激励の言葉を送ってきた。「はい、分かりました」以外に何を言えというのだ。
ひとまずこれで今日は小林先生から解放されそうだ。また小林先生から何か言われる前に、担当する生徒の顔と名前くらいは覚えておく必要はありそうだが。緊張感が解けていき、それに合わせて肩に入っていた重たい力が抜けていく。
その時だった。
「それと、今日の三時から、保護者交えて内田君と面会するから」
別れ際に投げつけられたこの小林先生の言葉を受けて、抜けかけていた緊張感が駆け足で舞い戻ってきた。
「今日このあとですか! そんなまた急すぎますよ!」
「うろたえないの。本人との情報交換が中心で、書類上の手続きは何もないから」
小林先生は、まるで大した要件でもなないかのように言っているが、私の中では、「そういう問題じゃないだろ」という感想が渦巻いていた。
色々と急ピッチで進めざるを得なかったとはいえ、問題児と対峙する前の心の準備さえ許してくれないとは恐ろしい職場だ。
私はノシノシという擬音が合いそうな歩き方をする小林先生の後姿を見て、私と同世代の人たちの間で教員という仕事があまり人気じゃない理由を改めて感じ取った。
そして時間は一気に進み、同日午後二時四十五分。
少し日が西に傾き始めたこの時間帯に、私と小林先生は来客兼職員用の西側の校門前に立ち、特に会話をすることもなく内田一家が来るのを待っていた。目の前には片側一車線の
なるほど、言われてみればそうかもしれない。私自身、学生時代は接点がない部活や専門教科以外でもやたらと声をかけてくる先生より、必要最低限のコミュニケーションだけに留めてくれる先生のほうが好印象だった。その原理で私がこの問題だらけの被災者の担任に選ばれたというわけか。嬉しくもなんともないし、その発言の前にあった空白のせいで、その場で取ってつけた感じを受ける。
「それじゃ、一年間、しっかりやるのよ。どのみち、いつか自分の後輩に仕事教えなくちゃいけなくなるんだから、腹くくりなさい」
小林先生は私に向かって、(本人の感覚では)激励の言葉を送ってきた。「はい、分かりました」以外に何を言えというのだ。
ひとまずこれで今日は小林先生から解放されそうだ。また小林先生から何か言われる前に、担当する生徒の顔と名前くらいは覚えておく必要はありそうだが。緊張感が解けていき、それに合わせて肩に入っていた重たい力が抜けていく。
その時だった。
「それと、今日の三時から、保護者交えて内田君と面会するから」
別れ際に投げつけられたこの小林先生の言葉を受けて、抜けかけていた緊張感が駆け足で舞い戻ってきた。
「今日このあとですか! そんなまた急すぎますよ!」
「うろたえないの。本人との情報交換が中心で、書類上の手続きは何もないから」
小林先生は、まるで大した要件でもなないかのように言っているが、私の中では、「そういう問題じゃないだろ」という感想が渦巻いていた。
色々と急ピッチで進めざるを得なかったとはいえ、問題児と対峙する前の心の準備さえ許してくれないとは恐ろしい職場だ。
私はノシノシという擬音が合いそうな歩き方をする小林先生の後姿を見て、私と同世代の人たちの間で教員という仕事があまり人気じゃない理由を改めて感じ取った。
そして時間は一気に進み、同日午後二時四十五分。
少し日が西に傾き始めたこの時間帯に、私と小林先生は来客兼職員用の西側の校門前に立ち、特に会話をすることもなく内田一家が来るのを待っていた。目の前には片側一車線の
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる