イレブン

九十九光

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♯1ー7

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「……。あなた、人と仲良くするの、好きじゃないでしょ? 人間不信になってる子の担任なら、新貝先生みたいに一人一人と密に接するような先生より、一定の距離を保とうとするあなたみたいな先生のほうがよく思われるかもって、山田先生が言ったのよ」

 なるほど、言われてみればそうかもしれない。私自身、学生時代は接点がない部活や専門教科以外でもやたらと声をかけてくる先生より、必要最低限のコミュニケーションだけに留めてくれる先生のほうが好印象だった。その原理で私がこの問題だらけの被災者の担任に選ばれたというわけか。嬉しくもなんともないし、その発言の前にあった空白のせいで、その場で取ってつけた感じを受ける。

「それじゃ、一年間、しっかりやるのよ。どのみち、いつか自分の後輩に仕事教えなくちゃいけなくなるんだから、腹くくりなさい」

 小林先生は私に向かって、(本人の感覚では)激励の言葉を送ってきた。「はい、分かりました」以外に何を言えというのだ。

 ひとまずこれで今日は小林先生から解放されそうだ。また小林先生から何か言われる前に、担当する生徒の顔と名前くらいは覚えておく必要はありそうだが。緊張感が解けていき、それに合わせて肩に入っていた重たい力が抜けていく。

 その時だった。

「それと、今日の三時から、保護者交えて内田君と面会するから」

 別れ際に投げつけられたこの小林先生の言葉を受けて、抜けかけていた緊張感が駆け足で舞い戻ってきた。

「今日このあとですか! そんなまた急すぎますよ!」

「うろたえないの。本人との情報交換が中心で、書類上の手続きは何もないから」

 小林先生は、まるで大した要件でもなないかのように言っているが、私の中では、「そういう問題じゃないだろ」という感想が渦巻いていた。

色々と急ピッチで進めざるを得なかったとはいえ、問題児と対峙する前の心の準備さえ許してくれないとは恐ろしい職場だ。

私はノシノシという擬音が合いそうな歩き方をする小林先生の後姿を見て、私と同世代の人たちの間で教員という仕事があまり人気じゃない理由を改めて感じ取った。

そして時間は一気に進み、同日午後二時四十五分。

少し日が西に傾き始めたこの時間帯に、私と小林先生は来客兼職員用の西側の校門前に立ち、特に会話をすることもなく内田一家が来るのを待っていた。目の前には片側一車線の
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