イレブン

九十九光

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♯1ー8

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道路を挟んで、野球の内野くらいの広さのため池と福祉会館の建物が見える。あとは雑木林があるだけで民家の類は一切ない。ここがゲームの世界なら、町と町の間にあるモンスターが出現する道路、という感じの景色だ。

気になるのは今の私たちの服装だ。私は柄のない白いワイシャツに黒いスウェットパンツ。小林先生にいたっては赤い芋ジャーだ。あまりオシャレに気を使わなくていい職場とはいえ、さすがにこの服装で外部の人間に応対するのはどうだろうかと思う。

そんなことを考えているうちに、見慣れない銀色のワンボックスカーが一台やってきた。腕時計で確認すると時刻は二時五十三分。内田家の車で間違いないだろう。

私たち二人は車のあとを追い、車のドライバーに対して駐車する位置を声と身振りで指示する。フロントガラス越しに、運転席にいる河童みたいな禿げ方をした黒髪の男性と、助手席に座る茶髪にパーマをかけた女性が見えた。内田平治の保護者、彼の祖父母で間違いないだろう。

車がエンジンを切って停まると、前方の座席からその二人が降りてきた。運転席からは、「はい、こんにちはー」と言いながら内田祖父が右手を挙げて挨拶をし、助手席からは、「よろしくお願いします」と言いながら内田祖母が頭を下げてきた。二人ともスーパーマーケットからの帰りみたいな普段着を着ており、そこだけちょっと安心した。

「内田君の保護者の、穣一さんと信子さんですね。初めまして。平治君の担任を務めさせていただきます、樋口と申します」

「副担任の小林です。本日はよろしくお願いします」

 二人に対して、私はわざとらしいくらい丁寧な言葉とお辞儀で、小林先生は普段通りの口調で軽く頭を下げて二人に挨拶する。これに対して内田夫妻は、信子さんが私と同じような態度で、穣一さんは「よろしくお願いしますねー」という、ずいぶんとフランクな態度で改めて挨拶をしてきた。

 そして私たち二人は、来客三人をすぐに応接室へと通して話し合い、というわけにはいかなかった。

「こら、平治、早く出てきなさい」

 信子さんが車の後部座席のガラスを小突きながら、中にいる内田平治に声をかける。車内で眠っているとは考えなかった。何せこっちは、彼がとんでもない体験をしていることを事前に知らされているからだ。

 彼女は三十秒ほどドア越しに格闘していたが、結局しびれを切らして自分でドアを開け、
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