イレブン

九十九光

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♯3ー2

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 私は教職員用のパソコンの電源を落とすと、「はい、今日は部活終了。電源落として帰りなさい」と、パソコン部の全生徒に告げる。何人かの生徒は、「今いいとこだったのに」と言いたげな表情をしながら荷物をまとめ、出入り口前で脱いでいた上履きを履いて廊下に出ていった。

「伊藤、鍵ちょうだい」

 さらに私は部長の伊藤正次のもとへと歩み寄り、彼の席に置いてあったこの部屋の鍵を持っていく。

「先生返してくれます? ありがとうございます」

 伊藤は回転椅子に座った状態で私を見上げ、お礼の返事をした。

彼の口元からはうっすらとよだれが垂れているのが見え、よく観察すると右の穴から鼻毛も頭を出している。これは年頃の女の子に嫌われるのも無理はない。成績も礼儀もいいだけに惜しい人材だ。

「いいっての。お疲れ様」

 私はさっさとパソコン室を出て、部屋の真正面にある西側の階段に向かって歩いていく。すると当然、さっきまで校舎西側突き当りにある音楽室で吹奏楽部の指導をしていた天草先生と合流することになる。

「え? 樋口先生、もう部活終わりにしたの? 早くない? まだ下校時刻まで一時間くらいあるけど」

 肩くらいまである長い黒髪に、鼻の下に短い黒ひげを生やした天草一先生が、私の後ろから気さくな感じに話しかけてくる。推定年齢四十代の、三年一組の担任もしている先生だ。

「え? そんなに早かったですか?」

 天草先生にそう言われて、私は左手にしていたラバー製のベルトの腕時計で時間を確認する。普段は下校時刻を知らせる校歌の放送で部活を終わらせるため、そこまで時間を気にかけていなかったのが原因だ。そして時刻は午後四時半と、確かに下校時刻まで一時間近くある。

「いいですよ、別に。長引きそうな要件だし、監視なしで生徒にパソコン触らせるのもまずいでしょうし」

「え? あの呼び出し、長引きそうな要件なの? なんで分かったの? てかそれだと、こっちの部活も早めに返さないとまずいかな?」

 私が適当に口にした言い訳に対して、天草先生はとても興味深いことのようにあれこれ
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