イレブン

九十九光

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♯4ー6

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石井を授業中に学校全体に聞こえるような声量で怒鳴りつけた先生は西川先生くらいしかおらず、その西川先生は、どの生徒に対してもそうやって叱りつける先生だった。

 だから私には、山田先生が石井を怒鳴りつけた理由が分からなかったのだ。

 そして私のこの質問に、ナイロンっぽい質感の運動着を着ている山田先生は、考えるように一拍置いてからこう言った。

「実は先ほどの幅跳びの順番待ちの間に、石井が内田君をわざと倒したり、後ろから蹴ったりを繰り返したんですよ。何度注意してもやめなかったんで、それで」

 私はこれを聞いて思わず、「え?」という間の抜けた返事を返した。

 学校一のワルの座をほしいままにする石井だが、差別やいじめといったことをしたという話は聞いたことがなかったのだ。むしろ一年生の時に、諸田の今田に対する陰口を見つけて、「そういうの見てるのが一番腹立つんだよ」と、本人に向かって冷たく叱責したという。そんな奴が今さらいじめに走るとは、とてもじゃないが信じられなかったのだ。

 そしてこのことは、目撃者である山田先生自身も疑問に感じていたらしい。

「何があったんですかね、石井。今まで人をいじめるようなことはしなかったのに」

 自分の担当する生徒の行為に純粋な疑問を持ってくれて嬉しい、という気持ちになったわけではないが、私は山田先生の意見に同調するように首を縦に振りながら、「そうですよね……」と返事をした。

 すると山田先生は、この事件に対して疑問視する立場から学年主任という立場にジョブチェンジして、私に次のように指示してきた。

「もしかしたら、修学旅行中止で苛立って、つい出来心でやっただけかもしれませんね。一応ほかの生徒含めて、クラス内の変化には気を遣うようにしてください」

 私は一言、「はい」と返事をして、自分のデスクに戻っていった。内心では、面倒なことになってしまったと、深いため息をついていた。

 そしてその面倒なことというのは、さらに私のクラス内で徐々に膨れ上がっていくことになった。

 内田平治へのいじめの輪が、男子を中心に二組全体に広がっていったのだ。

 靴をはじめとした持ち物が隠される、廊下でのすれ違いざまなどに殴る蹴る、トイレの個室に入ったところを確認してそれを廊下にいる人間全体に聞こえる声で拡散する、前から後ろへと回ってくる配布物を渡さない、給食の配膳をわざとらしく忘れるなど、どこかで聞いたことがありそうな内容ばかりだったが、連日のように発生したのである。それも私やほ
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