イレブン

九十九光

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♯4ー7

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かの先生たちが近くにいようとお構いなしに。

 『花より男子』のようにいじめを題材にした作品のそれと比べればかわいいほうだろうが、東中ではこれは由々しき事態だった。今までいじめと言えば本人に気づかれないように陰口を叩くくらいしかなかった学校で、石井、浜崎、伊達、熊本、山本、中沢など、そういった行為を一度もしてこなかった生徒たちが、突然一人の生徒をターゲットにして、人目もはばからずにそういう行為をするようになったのだ。

 これが明らかに異常な現象だと考えるのは人類皆共通であるはずだ。実際私を含めた東中の教員全員が、この現象に対してそのように考え、疑問視していた。

 そしてこの事態が収束する様子が一切ないまま、五月十六日月曜日。最近珍しくなくなってきた雨が降るこの日の朝の職員会議で、堤教頭は私たちに向かって次のように語った。

「えー、最近、三年二組で転入生の内田平治君一人を狙ったいじめが起きています。よくある、転入生を狙ったいじめだとは思いますが、我々教職員の監視も気にせず起きていることを考えると、通常のいじめより少し特殊な理由が内在していると考えられます。他クラスの担任の皆さんには、この二組でのいじめがほかのクラスにも飛び火しないように注意していただきたいです。そして樋口先生と小林先生には、いじめの原因の早期発見と、その解決を急いでいただきたいです」

 これに対して私と小林先生は、「はい」と返事をするしかなかった。

 そんなこと言われたって、今年度になって初めてクラス担任を押しつけられた私にどうしろというのだ。相手は学校史上初めての難事件、それも学校の厄介者ばかりを集めて作った問題児の巣窟での出来事だ。私は金八先生みたいによくできた先生ではないのだから、こんな問題を任されてもいい結果を出せる自信がない。

 こんな具合に心の中でぶつぶつ文句を言っていると、恰幅のいい体を前面に押し出しながら、左手側に立つ小林先生が私に声をかけてくる。

「樋口先生、ちょっといいですか」

 私は否応なしに、「はい、なんですか」と返事をし、彼女の顔を見上げる。そして小林先生の口から飛び出したのは、なかなかに衝撃的な発言だった。

「あなた、一時間目、二組の授業でしょ」

「はい、そうですけど」

「その時間使ってクラス全体に説教しなさい」

 え? 何言い出すの、この人。
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