イレブン

九十九光

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♯5ー2

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 なるほど、はっきりとした順位づけとして反映されるテストを使って、生徒は半分脅しつける形で黙らせようというわけか。一、二年生やほかの三年生はともかくとして、受験を捨てているも同然の生徒もいる三年二組でその手がどこまで通じるだろうか。

「内田平治本人へのケアは……」

「あなたにお任せします」

 私がさらに追加でぶつけた質問も、佐久間校長はあっさりと切り返してきた。

 すると横で話を聞いていた山田先生が口を開いた。

「樋口先生。指示通りにお願いします」

 私が彼のほうを向くと、先生は分かりやすい困り顔をしていた。小林先生も、私が今まで見たことがない、何かに悩んでいるような顔をしている。それだけこの問題が難しいという証拠だった。さらに言ってしまえば、仮に私がこの話のネットの掲示板にでも書き込めば、教員の仕事を追われることになりかねないという脅しと、決定権のない我々では勝ち目はないという諦めの意味が込められたセリフにも聞こえる

 私が何も言わずに突っ立っていると、「ご理解してください」と、山田先生が他人行儀に言ってきた。横にいる小林先生も、「言う通りにしなさい」と言いたげに、私のことを力なく見つめてきた。

 この日の二組の教室は、いつも以上に静かだった。

 私が隣の一組や三組の教室で授業をしていても、二組から聞こえる生徒の騒ぐ声は聞こえない。休み時間や給食の時間に様子を監視しても、いじめにかかわらなかった女子と一部の男子はお通夜状態。報告に走った松田に至っては、給食のビーフシチューに手をつけていなかった。逆に湯本や浜崎といった、内田へのいじめに大きくかかわった生徒たちの多くは、「ホント、内田の奴、何考えてんのか全然分かんねえ!」などの、早退した内田に対しての不満の声を漏らしていた。加害者組で静かだったのは石井だけだった。

 この日の帰りのホームルーム。私は午前中に佐久間校長に言われた通り、今日のことは忘れてテストに集中するように、二組全体に向かって説明した。誰も何も言い返さなかった。

 その後、私は職員室に行く前に、解散の指示を出してもずっと机に座り続けている石井に声をかけた。こいつだけ事件後に静かになったのが、どことなく気になったからだった。

「石井。もしかして今日のこと、気にしてるの?」

 私が横から声をかけると、石井は少し間をあけてから、一回だけ首を縦に振った。こいつの素行の悪さについては人づてに聞いた内容が多かったためか、これだけで彼の本心を見
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