イレブン

九十九光

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♯5ー3

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抜くのはできなかった。

 私は膝を曲げて、椅子に座る石井と同じ高さの目線になってこう言った。

「内田の味方になれとまでは言わないよ。でもこれに懲りたら、二度とあんな真似はするんじゃないぞ」

 石井は少し間をあけて、また一回首を縦に振って、昇降口へ向かった。

 二組の全生徒の下校を確認すると、私は足早に職員室へと向かう。中間テストの問題を作成するためだ。

 職員室では、基本五教科の担任を請け負っている先生たちが、ノートパソコンを使ってテストの用紙を作成している。筆記のテストは期末にやることになっている、天草先生や西川先生を筆頭とした実技科目の先生たちは、保護者への配布物や受け持つ部活のための資料作りを行っており、普段通りといううらやましい仕事内容をしていた。

「生徒はどうだった?」

 私が席に着くと同時に、小林先生が私に声をかけてきた。まだ今日の出来事が整理できていないから、あまり声をかけてほしくないのだが。そんなことも言っていられないので、私はパソコンの電源ボタンを押しながら彼女に視線を向ける。

「女子を中心に、見ていただけの生徒は静かでした。加害者の生徒は、自分たちと内田の扱いの差に納得してない感じでした。あとは石井と……、松田が一際落ち込んでる感じでしたね」

「松田は結構繊細だからね……。」

 体育教師として長く松田とかかわっている小林先生が、「やっぱりそうか」と言いたげにうなずいている。その止まる寸前の赤べこみたいな動作を終えると、彼女は再び私に視線を向けた。

「石井はもしかして、反省してる感じ?」

「そこまではちょっと……」

「……。そう」

 私の答えを聞いて、小林先生が足元を見るように視線をさらに下へと落とす。

 私が生まれた年にはすでにベテランだったと思われるこの先生でさえ、今回の事件には頭を悩ませているようだった。お互いにとんでもない時代に教師になったものだと、初めてこの人に同情した気になれた。

 それは小林先生も同じ気持ちだったらしい。
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