83 / 214
♯7ー4
しおりを挟む
その後も私は、松田が五月二十五日以降四回しか出席していないこと、一度本人に確認を取ってみたが詳しい理由は話さなかったことを、弱腰になりながら伝えた。当然、松田母の怒りは収まらない。
「生徒を立派に指導するのがあなたの仕事でしょうが! それをないがしろにして、私に相談しに来た時には、こっちと全然話が違うなんて! あなたそれでも教師ですか! そんないい加減なことだから里穂も愛想つかしたんじゃないんですか!」
両手の人差し指を耳の穴に突っ込みたいほどの勢いだ。時間を計っている余裕なんてないから、この苦痛な時間がどれだけ続いたか分かったものじゃない。こんなことなら職務怠慢なんかしないで、きっちりと連絡を入れていればよかったなんて考えは後の祭りだ。
こうして長い時間松田母からの説教を受けた後、私はようやく自分の発言権を許された。
「えー、確認なんですけども……。今里穂ちゃんはおうちにいますかね」
「まだ帰ってませんよ! 一体どこにいるんですか!」
あんたが知らないものを私が知っているわけがないだろうが。
私は心の中でそう考えながら、「そうですか……。お互い、今度里穂ちゃんにきつく叱っておきましょうか」と、控えめな声量で提案した。
正座を崩して和室を出る前に、私は最後の確認事項として、松田の進路に関する希望がないかを確認した。本人には六月の頭に聞いているのだが、『特になし』と答えられては仕方がない。
ここだけしおらしくなった松田母の答えはこうだった。
「旦那の両親の意向で、卒業後はうちの農園で働かせて仕事を覚えさせるということになってます。個人的には、旭丘とかに行かせたいんですけど……」
家の仕事を継がせるか、県内最難関の公立高校かのどちらかで迷っているというわけか。確かに松田は勉強のできる生徒だが、そんな難関校はさすがに無理だろう。
ちなみにこのあと家を出る前に確認したのだが、玄関口に松田の学校指定のローファーは見られなかった。怒り心頭の松田母が見送りに来なかったのをいいことにすぐそばの下駄箱も開けてみたのだが、やはり彼女のローファーは入っていなかった。自宅に閉じ込めて虐待していたなどのオチも考えられそうにない。
続いて鍋山地区を中心に回る二日目。私は自分の車に乗って、狭い路地が蜘蛛の巣のごとく広がる鍋山の住宅地を小雨の中で進んでいた。
この辺は北と東に向かって下り坂になっており、巽が丘と比べて若干古い家が立ち並ん
「生徒を立派に指導するのがあなたの仕事でしょうが! それをないがしろにして、私に相談しに来た時には、こっちと全然話が違うなんて! あなたそれでも教師ですか! そんないい加減なことだから里穂も愛想つかしたんじゃないんですか!」
両手の人差し指を耳の穴に突っ込みたいほどの勢いだ。時間を計っている余裕なんてないから、この苦痛な時間がどれだけ続いたか分かったものじゃない。こんなことなら職務怠慢なんかしないで、きっちりと連絡を入れていればよかったなんて考えは後の祭りだ。
こうして長い時間松田母からの説教を受けた後、私はようやく自分の発言権を許された。
「えー、確認なんですけども……。今里穂ちゃんはおうちにいますかね」
「まだ帰ってませんよ! 一体どこにいるんですか!」
あんたが知らないものを私が知っているわけがないだろうが。
私は心の中でそう考えながら、「そうですか……。お互い、今度里穂ちゃんにきつく叱っておきましょうか」と、控えめな声量で提案した。
正座を崩して和室を出る前に、私は最後の確認事項として、松田の進路に関する希望がないかを確認した。本人には六月の頭に聞いているのだが、『特になし』と答えられては仕方がない。
ここだけしおらしくなった松田母の答えはこうだった。
「旦那の両親の意向で、卒業後はうちの農園で働かせて仕事を覚えさせるということになってます。個人的には、旭丘とかに行かせたいんですけど……」
家の仕事を継がせるか、県内最難関の公立高校かのどちらかで迷っているというわけか。確かに松田は勉強のできる生徒だが、そんな難関校はさすがに無理だろう。
ちなみにこのあと家を出る前に確認したのだが、玄関口に松田の学校指定のローファーは見られなかった。怒り心頭の松田母が見送りに来なかったのをいいことにすぐそばの下駄箱も開けてみたのだが、やはり彼女のローファーは入っていなかった。自宅に閉じ込めて虐待していたなどのオチも考えられそうにない。
続いて鍋山地区を中心に回る二日目。私は自分の車に乗って、狭い路地が蜘蛛の巣のごとく広がる鍋山の住宅地を小雨の中で進んでいた。
この辺は北と東に向かって下り坂になっており、巽が丘と比べて若干古い家が立ち並ん
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる