イレブン

九十九光

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♯7ー8

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の前にやるべきことなのだが、あいつの場合は学校に来てないせいで、本人への確認もできていないのだ。

 石井母の答えはこうだった。

「あの子には……、できれば好きなように生きてほしいです。ですがうちは、夫の治療で精一杯で……」

 彼女の本心をこちらで補完すると、進学はさせてあげたいけどお金がないからいいところは無理、だろう。あの問題児も本当にいいお母さんも持ったものだ。

 そしていよいよ三日目。この日は八幡地区を中心に、残りの家に顔を出すことになる。これでこの面倒な仕事も終わりかと思うと、昨日の不登校問題の進展で楽になった心が、さらに晴れやかなものになる。ちなみにこの日も、石井と松田は学校に来なかった。

「樋口先生、どう? 家庭訪問うまくいってる?」

 午後一時頃に、荷物をまとめて出かけようとしていた私に、汚れ一つ目立っていないスーツを着て、髪の毛もワックスできれいに整えている天草先生が後ろから話しかけてきた。

「え、ええ。まあ……」

 気分上々とはいえコミュ障なのに変わりはない私は、いつものあいまいな返事を返した。

 すると天草先生は普段通りのテンションでそこに突っかかってくる。

「何々? もしかして苦戦してる? まあ、二組って色々大変そうな子が多いって聞くから、これで普通だって考えて、そんなに深刻に思わなくてもいいんじゃないの?」

 自分のクラスじゃないからってずいぶんと無責任なことを言ってくるな、この人。

「ところで、例の転入生の家の家庭訪問はいつなの? 今日の授業でお宅の伊達君が言ってたんだけど、あの子って八幡の子なんでしょ?」

 そんな私の本心を知る由もなく、おしゃべり大好きな天草先生は、「これくらい世間話の範疇だからいいでしょ?」と言わんばかりに追加の質問をしてくる。早く終わらせたいからもう行かせてほしいのだが。

 そんな本心は口が裂けても言えないので、私はおとなしく内田の大まかな住所を教えた。

「みかん村ってありますよね? アパートがいっぱいある場所。あそこの近くにある、早く取り壊せって言われてる温室の向かいです」

 八幡という場所は、今言ったような誰も使っていないガラスの温室、倉庫や空き家、未整備の雑木林などが複数見られる場所になっている。最近はそういった場所を取り壊して分譲住宅を建てようという動きもあるのだが、最寄りの駅が各駅停車の電車しか停まらない
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