イレブン

九十九光

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♯10ー13

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んだ』とか、生徒のせの字もないようなことばかり押しつける。小、中、高、ずっとそうだった。俺らのことなんかまったく考えてないどころか、教師ってのは絶対的に偉いんだとでも言いたげな態度の奴もいる。シングルマザーの奴が高一の進路相談で担任に、『お前んち、ちゃんと学費払えそう?』って言われたらしい。風邪ひいて休んだ奴に『自分の体調管理もろくにできん奴が学校来るな』って言った中三の担任教師が、趣味の登山で足骨折して受験シーズンずっと公欠だったってこともあった。保護者が学校に怒鳴り込んできてようやくいじめの存在に気づいた小学校教師が次の日、『はじめっからずっと気づいてたんだよ』って生徒に怒鳴ったとも聞いた。おまけにそいつら、この問題のあとも普通に教師やってたんだ。十二年間ずっとこういう連中のことを見てきたから、俺は教師という仕事になんのあこがれも持てなかった。じゃあどうして教師目指したか分かるか? こんなクソだらけの仕事に就きたくないって考えるのが普通だと思わないか? 俺が教師を目指した理由は、そんなクソみたいな人間になりたくなかったからなんだよ。俺のことを人より少し勉強ができるからっていい方向にえこひいきするような連中を見返してやりたかったから、教師になろうと思ったんだよ。それがどうだよ。教えられるのは学習指導や臨床心理、教育学の歴史や哲学の机上の話ばかりで、実際の現場の様子はビデオでも見せてもらえない。実際に学校で学んでいる本物の子供のことなんか微塵も考えていないのが、『よい子供とは親や教師の言うことを素直に聞ける子供のことです』の一言で済む浅い考えがまかり通る様子ですぐに分かった。とどめを刺したのは、そこにいる大学教師が女子学生の一人に執拗に肉体関係を迫って中退にまで追い込んだって噂を聞いた時だよ。俺がその教師のところに行って、絶対に他人には言わないから本当のことを言ってくれって言った時、そいつなんて言ったと思う? 『男の君には関係ないだろ?』だ。その時分かったんだよ。教師を作る教師がクソだから、俺が見てきた教師もクソしかいなかったんだって。逆に言えば、教師はクソになれた奴にしかなれないんだって感じた。だからやめた。クソになってまで教師になろうなんて思えなかったからやめたんだ」

 内田庵の話は、淡々とした事務的な口調ではあったが、確実に怒りや悔しさがにじみ出ている体験談だった。その間小林先生は一言も発しなかった。主導権は完全に彼のものだった。

 内田庵はその勢いに任せて、今度はさっきの先生の発言について言及する。

「あんたさっき、未成年を連れ回すのは犯罪だって言ってたな。それくらい知ってるよ。本人の意思に関係なく保護者の同意なしにそういうことをすれば、刑事告訴されても文句言えないってことくらい。言っておくが、空介や里穂たちは、自分の意志で学校に来ないで俺
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