イレブン

九十九光

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♯11ー7

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 私が車を停めてすぐに、山田先生が血相を変えて助手席から飛び出した。私もそれに続き、和風建築に見える造りのアーチをくぐって敷地内へと入っていった。

 そこからすぐに見えた芝生の広場、そこに点在する木製のテーブルセットの一つに、書類片手に事情聴取する警察官と、彼の正面に座る品川と諸田がいた。その後ろには施設の管理者らしいエプロン姿の女性に監視されながら立っている十数名の生徒がいた。

「新貝先生、警察来てるって言ってなかったんで」

「あのすいません! 東中学校の職員なんですけども!」

 山田先生は私の質問を遮って、事情聴取する大人たちに向かって叫んだ。

 それに反応したのは、いかにも気が短そうな顔をしている管理者の女性だった。

「あなたたちですね、この子たちの先生って」

「は、はい」

「一体どういうしつけしてるんですか。こんな平日の真っ昼間からこんなところで遊ばせるなんて」

「も、申し訳ございません」

 山田先生は女性に向かって必死に頭を下げながら、先ほどBOOK・OFFで言われたものとまったく同じ苦情を言われ続けた。明確に誰かが言ったわけではないが、どうやら警察を呼んだのは彼女らしい。状況から考えて、学校への通報前に警察が来て、新貝先生が私たちにその旨を伝えるのを忘れていたと考えるのが自然だろう。

「東中学校の先生ですね」

 私が群衆の少し後ろに立っていると、事情聴取する警察官が私を呼んだ。私が素直に質問内容を認めると、彼は落ち着いた様子でこう続けた。

「器物破損等ありませんでしたけど、施設の方から通報がありましたので、念のために確認を取りました。あとは先生方にお任せしますが、よろしいでしょうか」

 私も山田先生と同様に、「申し訳ございません」と言いながら頭を下げて、そんな話を聞いていた。

 愛知県の条例が定める徘徊による補導の条件というのは、午後十一時から午前六時という時間設定がある。これにより今回品川たちは、警察の御厄介にならなくて済むわけだ。

 その品川たち本人は、私たち教員二人を冷めた目で見つめていた。「めんどくさいからかかわってくるな」と言っているのか、私たちを本気で軽蔑しているのか、どうとでも取れる目をしていた。
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