イレブン

九十九光

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♯14ー13

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いしたみたいな言い方……! 今回の地震で大切な人を亡くしたほかの人たちが聞いたらどう思うか分からない!? 日本中にいるそういう人たちを、同じ体験をした人として励まそうっていう、この番組の考えくらい分かるでしょ! どうしてその通りにしないの! どうしてそんな意地張るの!」

 石井母は涙を流していた。彼女の発言に悪意がない証拠だ。

 あとで聞き直して確認したわけではないが、どうやら彼女は自分の同調者がほしかったようだ。例の震災を理由に弱みにつけ込んだり差別したりする社会において、自分と同じ体験をした内田平治と直に会い、彼と気持ちを共有したかったようなのだ。

 しかしそれは、この少年の前では計算違いだと言うべきだろう。ご覧の通り、内田は他人の気持ちを汲んで自分の心に嘘をつくような真似は絶対にしない。

「そんなことまで知りませんよ」

「なんなのあなたは!」

 目に見えて怒りが入り混じっている石井母が、パイプ椅子を後方に蹴り飛ばすようにして立ち上がった。

「同じ苦しみを体験した人なのに、どうしてそんな冷たいことが言えるの!」

「全然同じ苦しみじゃありませんよ。そもそも僕、あの地震で大切な人も物も風景も、何一つなくしてませんから」

「嘘言わないで! 目の前で人が死んで何も感じなかったわけないでしょ!」

「……。本当に何も感じませんでしたよ」

「ふざけないで!」

 石井母が内田の目の前まで歩み寄る。私や真栄田さんを含めた、その場にいる大人全員がそれを止めにかかった。石井母は私たちに押さえ込まれながらも、椅子に座ったままの内田に向かって叫ぶ。

「身近な人が死んで悲しいだなんてバカな事あるわけないでしょ! あの日あの地震があの大きさで起きて嬉しかったって言うの!? 生まれ育った町が津波で流されてスッキリしたって言うの!?」

「……。はい」

「そんなわけない! 家族や学校の人が大勢死んでいってそんな風に思うわけがない! 無関係な人の命まで奪っていったあの地震にいい側面なんてあるはずない! 言いなさいよ! 優しかったお父さんが死んで悲しいって! 大好きだった友達に生き返ってほしい
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