イレブン

九十九光

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♯14ー15

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 私たちが部屋を出て、一階へと続く螺旋階段の前に出ると、内田はすでにそこを数段飛ばしながら駆け下りている最中だった。私と長谷川さんはほかのものには目もくれず、その階段を一段ずつ駆け足で下りていった。その時、真後ろから穣一さんの声でこう聞こえてきた。

「庵! 平治止めろ!」

 私が螺旋階段の中腹あたりで止まって下を見ると、会館の正面入り口の自動ドアの前に、あの内田庵が立っていた。

 普段着姿の彼と内田は、今にも正面衝突しそうな距離にまで詰まっている。誰もが逃げる内田を止めてくれると最初は思った。

しかし彼の行動は逆だった。

 内田庵は一瞬内田の肩をつかんだかと思うと、そのまま自分の背後、つまり正面入り口の方向へと押したのだ。「行け。ここは俺が食い止める。」というような瞬間である。

「何やってんだ、おい!」

 私はすぐに階段の残りを駆け下り、内田庵に詰め寄った。

「お前こそ何やってんだ!」

 内田庵は私の胸ぐらをつかむと、体を持ち上げるような勢いで吊り上げながら怒鳴りつけてきた。

 突然の出来事に私が面食らって動けないでいると、内田庵は文字通り私の目と鼻の先で言葉を続ける。

「どうしてあいつの傷口に塩を塗るようなことをした! 本当にあいつのことを思ってるなら、過去のことを思い出させるような真似は絶対させないはずだろ! それもテレビ番組の震災関係の取材なんていう、父親にレイプされたとかそれが理由で学校でいじめられたとかの本音を言わせず、思ってもいないきれい事だけを無理に言わせるような真似させやがって! どうして力ずくでもこの話をやめさせなかったんだ! それでも教員免許持ってる教師かよ!」

 大した人生経験もない私だが、この時の内田庵の顔がどういうものだったのかはよく分かった。曲がりなりにも子供のことを考えている一人の人間としての怒りと、子供のことを微塵も考えていない大人への軽蔑の顔だった。私の中で、最も怖かった人からの説教のランキングが塗り替わった瞬間だった。

「こら、君たち! 通しなさい!」

 私の正面から、長谷川さんたちの声が聞こえてくる。私が内田庵の頭の横から様子を確認
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