イレブン

九十九光

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♯14ー16

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すると、十人弱の高校生か大学生くらいの背格好の、髪を染めたりダメージジーンズを穿いていたりする少年少女が、自動ドアの前に立ちはだかっているのが見えた。十中八九内田庵と距離の近い、東中のOB集団だった。

 内田庵が私の体をゆすり、こっちを見るように促す。指示通りにすると彼が口を開いた。

「平治は今、俺の車に乗せてきた自転車でどこかに向かってここから逃げてる。あんたらには十分ほどここにいてもらう」

「お、おい待て! そんなことしたら内田がどこに行くか分からないぞ!」

「あんたらのそばにいるよりましだ」

 この男の決意の固さは目に見えて明らかだった。体格差もあるが、私を捕まえる手の強さは非常に強く、無理矢理振りほどいて内田を探しに行くこともできない。内田夫妻やテレビクルー、石井母も、彼の仲間たちに押されるようにして、ロビーに設置された背もたれのないソファの上に座らされていた。

「あんたも座れ。話し合いもトイレもダメだからな」

 私も内田庵に背中を押されるまま、そのソファのところへと連行されていく。

 だが私たちは、そのまま本当に十分間拘束されることにはならなかった。

 正面玄関のほうからやかましいサイレンの音が聞こえてきたかと思うと、「動くな、お前たち!」という声とともに、自動ドアからワイシャツ姿の男女数十名が押し掛けてきた。すぐそばにある警察署から来た警察官だった。会館職員が隙を見て通報したのだろう。

 東中OBと警察官は、そのまま文化会館のロビーで乱闘騒ぎを起こし始めた。「おとなしくしろ!」や「うっせ、放せ!」などの怒号が響き渡り、そこかしこで数人の人間に押さえ込まれる若者が出始めた。内田庵も当然、ものの数分でその中の一人となった。

「皆さん、お怪我はありませんか」

 私たちがあっという間の出来事に呆然としていると、若い男性の警察官が一人、革張りの警察手帳を開いて見せながらこちらに声をかける。

「皆さんには今回の件で事情聴取を取らせていただきますので、申し訳ありませんが今しばらくこちらで」

「すいません! それはまたあとでいいですか!」

 警察官の話を遮ったのは穣一さんだった。のほほんとした印象しかない彼は、今回は切羽詰まったような顔つきで訴え始める。

「孫が会館の外へ行ってしまったんです! 探しに行かせてください!」
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