イレブン

九十九光

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♯17ー9

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 私たち八人は、四人掛けのテーブルを二つくっつけたお座敷の席に案内され、先月の秘密の集会の時と同じ座り方をした。片言の日本語をしゃべるウェイターへの注文は深沢先生が取り仕切り、大方の先生がレバニラ定食だとか台湾ラーメン(台湾とはなんの関係もない名古屋飯)だとかを注文していく。私は特に深く考えることなく、醤油ラーメンとニラ玉スープのセットを注文した。

 私を除く七人は、いかにも意気揚々という感じで会話をしていた。内容は先ほどのオーダーの時に、山田先生が車で来たことを忘れてビールを注文しそうになったこと。アルコールではなくウーロン茶を飲んでいるくせに、全員軽く酔っているような楽しさだ。

 私はそんな気分でなかったというわけだ。カウンター越しに見える厨房から聞こえる中国語が右から左へ抜けていき、どうにも楽しい会話の中に入り込めなかった。元々こういう席が苦手だったというのもあるが、どうして自分かここに呼び出されたのかを知っているからだ。

「それじゃあ、樋口先生。遅くなって申し訳ないんだけど……」

 私の向かいに座る小林先生が、見覚えのある一枚の紙をこちらに差し出した。『学校に背を向けて学校祭をつぶす会』と黒い手書きの字で書かれた紙だった。同時に私の横に座る天草先生が、「使う?」と言いながら赤のボールペンを差し出してくる。

 この状況を簡単に説明するのであれば、後戻りできないようにこの紙にサインするところを全員に見せろというわけだ。昨日小林先生に電話して、今日一日会の様子を視察させてもらった身としては、今さらこれへのサインを渋るなんて気はさらさらない。問題はその前の儀式なのだ。

「樋口先生、サインの前に、この会に参加しようと思った理由を」

 小林先生から向けられた言葉に私は、「来やがった」という思いで天井を見上げた。標準的な白い壁紙を見ていても、同僚たちの視線がチクチクと刺してくるのが分かる。

「言わなきゃダメですかー……?」

「聞きたいじゃないですか。あの樋口先生が規定外の仕事をしたいと思った理由」

 私のはす向かいに座る佐藤先生が言う。彼の中での樋口明美像がなんとなく察せた。

 私が追加の逃げの一手として、「理由なら小林先生に電話で言いましたし……、恥ずかしいじゃないですかー」と言ってみたが、「僕よりはましでしょうが」と天草先生が言ってくる。たしかにあの発言より恥ずかしい言葉はそうは出ないだろう。というかそれだとあんたも詳しい理由を言っていないじゃないか。
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