187 / 214
♯17ー8
しおりを挟む
「里穂、最近ようやく学校にかかわろうとするようになったんですけど……。うちでは全然私たちの話を聞いてくれないんですよ」
「お母さんもお父さんも、ってことですか?」
「私の両親もです。……。こっちからどれだけ話しかけても、うんともすんとも言ってくれなくて……」
このモンスターペアレント、なんてしおらしい話し方をするのだろうか。ついさっきまで怒っていたというのに、今はすぐにでも電話の向こうで泣き出しそうだ。
松田本人が自宅でそういう態度を取っているのは、十中八九わがままな保護者たちへの反抗期である。借金を使って石井家を脅し、内田平治へのいじめを裏から操作し、それがバレても悪びれる態度一つ見せず、家庭では実の娘に県内屈指の難関校への受験か実家の農園の継承の二択を迫っている。これだけの条件が揃っていれば、内田庵や学校祭つぶしなどのきっかけがなくとも反抗期になって当然であろう。
もちろん私には、こんな本音は口が裂けても言えっこない。
「……。三年生となると、色々ありますからね。こちらからも、適宜声掛けをしようと思います」
私のこのセリフに、「はい。お願いします」と、松田母は丁寧な別れのあいさつのあとで電話を切った(八月の間中、彼女とのこのようなやり取りがほぼ毎日のように起きたことは、また別の話)。
こうしてにぎやかさと繊細さが入り混じった一日が終わり、生徒たちは午後六時には自宅へと帰っていく。だが自分の車に乗り込んだ私たちは、誰も自宅には帰らなかった。八台の自動車は深沢先生の行きつけだという中華料理店に彼女の先導で向かい、店の向かいの砂利の上に虎柄のロープを使って作った駐車場に停まった。位置的には、私が自宅に向かうために通過する踏切の前を北へと横切り、数十メートルほど行ったところにあるもう一個の踏切のすぐ横だ。
深沢先生がガラスにアルミサッシの引き戸を開けて店内に入ると、「いらっしゃいませー!」という言葉のあとに『ファンイン グゥァンリン』という言葉が聞こえてくる。「え? 今のどこの言葉?」と新貝先生が口にすると「中国語(漢字表記は文字のフォントがおかしくなるので割愛)で、『いらっしゃいませ』って意味です。」と、飛行機の国際線で仕事をしていた三島先生が説明した。どうやらここは、本物の中国人が経営する料理屋さんらしい。買い物の際に横を通ることはあったが、入店したのはこの日が初めてだった。
「お母さんもお父さんも、ってことですか?」
「私の両親もです。……。こっちからどれだけ話しかけても、うんともすんとも言ってくれなくて……」
このモンスターペアレント、なんてしおらしい話し方をするのだろうか。ついさっきまで怒っていたというのに、今はすぐにでも電話の向こうで泣き出しそうだ。
松田本人が自宅でそういう態度を取っているのは、十中八九わがままな保護者たちへの反抗期である。借金を使って石井家を脅し、内田平治へのいじめを裏から操作し、それがバレても悪びれる態度一つ見せず、家庭では実の娘に県内屈指の難関校への受験か実家の農園の継承の二択を迫っている。これだけの条件が揃っていれば、内田庵や学校祭つぶしなどのきっかけがなくとも反抗期になって当然であろう。
もちろん私には、こんな本音は口が裂けても言えっこない。
「……。三年生となると、色々ありますからね。こちらからも、適宜声掛けをしようと思います」
私のこのセリフに、「はい。お願いします」と、松田母は丁寧な別れのあいさつのあとで電話を切った(八月の間中、彼女とのこのようなやり取りがほぼ毎日のように起きたことは、また別の話)。
こうしてにぎやかさと繊細さが入り混じった一日が終わり、生徒たちは午後六時には自宅へと帰っていく。だが自分の車に乗り込んだ私たちは、誰も自宅には帰らなかった。八台の自動車は深沢先生の行きつけだという中華料理店に彼女の先導で向かい、店の向かいの砂利の上に虎柄のロープを使って作った駐車場に停まった。位置的には、私が自宅に向かうために通過する踏切の前を北へと横切り、数十メートルほど行ったところにあるもう一個の踏切のすぐ横だ。
深沢先生がガラスにアルミサッシの引き戸を開けて店内に入ると、「いらっしゃいませー!」という言葉のあとに『ファンイン グゥァンリン』という言葉が聞こえてくる。「え? 今のどこの言葉?」と新貝先生が口にすると「中国語(漢字表記は文字のフォントがおかしくなるので割愛)で、『いらっしゃいませ』って意味です。」と、飛行機の国際線で仕事をしていた三島先生が説明した。どうやらここは、本物の中国人が経営する料理屋さんらしい。買い物の際に横を通ることはあったが、入店したのはこの日が初めてだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる