イレブン

九十九光

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♯17ー7

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「どういうことですか? 今年は小学校で練習させて、衣装もずいぶん簡単なので済ませるって」

 この日の午後、私が電話で対応したのは、モンスターペアレントの松田母だった。

 私は小学生用に高さ調整された椅子に座り、目頭の上あたりを指で押さえながら、この高圧的な態度の質問に答える。

「いやですね……。時々練習を見に来る大人のせいで緊張するっていう意見と、今年は練習から演目の内容をお客さんに予想されたくないっていう意見が、生徒の中から出ましてですね……」

「なんですかそれ! 学校での活動を保護者に伝えないって、学校としてどうなんですか! しかも自転車で行っても三十分以上かかるような場所まで行かせて! 倒れる生徒が出たらどうするつもりなんですか!」

 電話の向こうの松田母はご機嫌ななめだった。これに対して私は、「すべて生徒の意見を尊重した結果です。彼らも納得してますし、何よりこれで喜んでます」と説明する。

「……。里穂もですか?」

「もちろんです。二組では彼女が一番積極的です」

 松田母からの確認事項に、私は一片の迷いもなく答えた。

 応援の演武ではなく学校祭乗っ取り計画ではあるが、確かに彼女は積極的であり、今回のライブでは、何人かの生徒ともにピアノの演奏を受け持つことになっている。音楽関係の見回りをする天草先生いわく、単純なレパートリーならどの生徒よりも多いという。

 それがどうやら、この家では疑問が浮かぶ原因になっているようだった。

「あの子、最近はピアノの練習ばかりしてるんですよ。家に帰るなり、こっちが呼ぶまでずっと。応援の演武と全然関係ないじゃないですか」

 なかなか感の鋭い人だ。応援の演武で使われる楽器は和太鼓のみだし、水泳部員が一日目の出し物でグランドピアノなんか演奏するわけがない。

「あー……。そうなんですか……。でもこっちでは応援の演武を頑張ってますし……。息抜きじゃないですかね?」

 私が適当な言い訳をすると、電話の向こうの松田母は、「そういうものでしょうか……」と、なんだか意気消沈という感じで答えた。自分の娘の意見では逆らえないと考えているのか、それとも何かほかにわけがあるのか。

 松田母は、こちらが特に何か言ったわけでもないが、こんな家庭の事情を言ってきた。
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