イレブン

九十九光

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♯18ー2

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の中で起きている反旗の意思には気づいていない様子だった。

 私たちは職員室内で、学校祭つぶしに関する話は一切せず、「今期も頑張りましょう」「生徒の受験対策が大変ですね」というような世間話をすることを心掛けていた。理由の説明は不要だろう。

 午前八時半。私は三年二組の名簿票を持ち、校舎二階の廊下へと出ていった。

 騒がしかった。四つあるクラスの教室すべてから、生徒が何やら談笑する声が聞こえており、三年生を取り巻くストライキ問題は完全に収束していた。私たちの努力と覚悟の勝利である(自分は途中参戦だが)。今にもスキップしだしそうなほど晴れやかな気分を胸に抱きながら、私は自分の担当である二組の教室へと歩を進めた。

 二組の教室は静かだった。完全に無音だったわけではなく、生徒たちが何やら小声で話している声が聞こえてきていた。

 これを理想的な状況だと言う奴は、教師以外の仕事をしている人にもいないだろう。年頃でやんちゃ盛りな連中が、聞き耳を立てないと分からないような声量で話す時は、何かやましいことを話している時だけである。

 私は恐る恐る教室前方の引き戸を開けた。

 教室内は、ほぼすべての生徒が揃っていることが一目で分かる状態だった。全員が自分の席に座り、基本隣り合った者同士で話をしていたためだ。

 私はそんな教室内を見渡して真っ先に脳裏をよぎった質問を生徒たちにした。

「内田がいないけど……、誰か知ってる?」

 この日の欠席者は内田一人だった。窓際後方の彼の席にだけ、誰も座っていなかった。

 私の質問には誰も答えなかった。だが彼、彼女らの話題が内田にあることは察しがつく。同時に私は、内田がここにいない理由にもある程度の予測を立てていた。

「小林先生呼んでくるから、先生の指示で体育館行きなさい」

 私は無言でいる教室内の生徒たちにそう言うと、小走りで元来た道を引き返した。そして職員室から今にも体育館に行こうとしている小林先生に、二組の教室に行くようにお願いすると、私は自分のデスク上の固定電話から内田家に通話を入れた。

「もしもし、内田です」

「はい、もしもし、担任の樋口です。平治君は今どちらに」

 電話の向こうから信子さんの声が聞こえると、私は要点だけを確認する。

 信子さんは一拍置き、いかにも深刻そうな口調でこう答えた。
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