上 下
21 / 46
第3章 通り魔事件。

第21話 捜査の進捗。

しおりを挟む
 病院を後にしたぼくは、すぐに電話に出た。

「どうしたの、結愛?」
「ちょっと気付いた事があって」

 ぼくは近くの公園のベンチに腰を下ろす。
 結愛のサーチ能力は人の限界を遥かに超える。

 例えば、ある出来事、事実について検索をかけるとする。結愛の未来視は、ある思考を仮定した場合にどのような結果が得られるかという未来を垣間見るものだ。

 故に、結愛がこう検索すればこういう事実が得られるという、捜査の過程を完全に省略する事が出来るのだ。結愛は今回の事件に関する情報をキーワード化して、有用な情報が出てくる未来だけを抽出し、実際に検索したという事だろう。

「前に他県で起きた、通り魔事件については覚えてる?」

 通り魔事件?

「結愛。今回の一件は通り魔とは無関係なんじゃ」
「ううん、一度話を聞いて。今回私が調べたのは、過去に通り魔事件として警察に処理された事例を筆頭に今回と似たような事例を徹底的に調べ上げたの。そうすると、いくつか無視できない事があって。今そっちにリンク送った。これを見て」

 ちょうど3年前から今に至るまでの通り魔事件が起きたリストを簡単に纏めてある。そして備考欄には実際に記事になったネットニュースのリンクを添付してある。それをタップしてみると、確かに起きた場所は違えど、強姦、強盗を目的とした事件では無かった事が分かった。更に、どれも凶器として用いられたのは、市販で購入できる調理用のナイフ。

 事件が起きたのは、午後七時以降から、朝方の三時にかけてまで。どれも夜、人通りの少ない場所を狙って女子児童、女子生徒を徹底的に狙っているではないか。

 これ程の共通点があるのは、寧ろ不自然だ。
 だが、場所や時期がまちまちなだけに、犯人を絞りずらい。

 結愛の能力が無ければ、ここまで早くこの情報を絞り出すのだけでも精一杯だったはず。被害者にもまるで共通点を見出せない。同じ女子生徒って事くらいじゃないか。

 本当に犯人が、うちの学校の生徒なのか。
 それすらも怪しくなってきたぞ。

「結愛は引き続き探ってみてくれ」
「悠斗はなにするの?」
「麗奈を刺した犯人の目星を付けてみる。そこから、ここにリストアップしてある人との共通点を探していこうと思うんだ」
「ありがとう、それじゃ」

 ちょっとずつ、真相に近づけているだろうか。
 犯人はまた、時期を空けて誰かを狙うのか?

 分からない。だが、犯人はきっとまた誰かを狙うはずだ。
 待っていろ、ぼくが直接その顔面を殴り飛ばしてやる。


 家に帰った。


 母親はまだ帰って来ていない。
 部屋の電気は全部綺麗に消えていた。

 自室に戻り、学校裏サイトを閲覧する。
 ぼくが正直気になっているのは、伊崎先輩だ。

 その人が犯人かどうかまでは分からない。
 でも、どうにもその人が鍵を握っている気がする。

 他にも一応陸上部のメンバーについて探ってみる。
 やはり、裏サイトで一際目にするのは伊崎先輩の件だ。

 特に、誰と付き合い。誰と別れたのか。
 それがまるで日記みたいに綴られている。

 ああ、怖い。嫉妬させると、こうやって晒されるんだ。
 ぼくと結愛がこうやって密会したりしていると、誰かがこのサイトに書くんだろうな。いや既に書かれていたか。ぼくを仄めかす内容もあったじゃないか。

 前に見たぞ。確か。
 麗奈が乗り換えたとか何とか言う話の時。

 あれは確か、ぼくが麗奈が彼氏と別れたという旨の相談をちょうど受けて、それをきっかけに麗奈と話し始めるタイミングじゃなかったか?

 結愛と違って、麗奈は人目を気にせず話しかけるタイプだから、こうやって噂が立つのだろう。結愛がもし麗奈と同じように振る舞っていたら、それこそ芸能人のスキャンダルみたいに、ある事無い事ここに書かれていただろうよ。

 うわぁ……恐ろしいな、裏サイト。

次は他のアプリでも検索してみよう。あの時は結愛に止められはしたが、今のぼくなら誰を検索するべきか分かるだろう。

伊崎先輩のは見つかったが、自撮りばっかりでうざいな。
何か手掛かりはないか?

「ってあれ。最近更新が止まってる?」

妙だな。それまではほぼ毎日投稿していたのに、丁度麗奈が刺されて学校が休校になった頃からぱったりと消えている。休校だからネタが無かったのか?

伊崎先輩は諦めて、陸上部の方もチェックして見た。陸上部の公式アカウントは見つかった。参加メンバーを探るのは難しいとも思ったが、最近出た大会の出場者がPDF形式で纏められている。麗奈の名前も見つかった。ここの高校から誰が出場したのかが丸わかりだ。

うちの陸上部はかなりの強豪で、何度も大会で上位入賞を果たしている。既に世間的にも名前が売れている選手だってチラホラいるくらいだ。嫉妬と言えばだ。陸上部の絡みで、他校の生徒が成績に悩み嫉んで刺したって線はどうだろうか。

女子陸上部を狙ったって事なら、相手も女子なんだろうけど。
通り魔が狙った相手の狙いがまちまちだったのも気になる。

やっぱりこの線は無しかな。

「あああ、ダメだ。何も思いつかない」

これ以上やってもダメか。
何かを掴みかけているのに、あと一歩足りない。

最終奥義は、その伊崎先輩に出会う事くらいしかない。
その人に会えば、何か分かるかもしれないからな。

ただ、少し怖い。
もし犯罪者だったら……。

明日だ。明日会いに行こう。
その前に未来視を発動させて安全を図るんだ。

それなら、大丈夫なはずだ。
さあ、寝よう。


予知夢を見た。
内容は、





しおりを挟む

処理中です...