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第3章 通り魔事件。

第22話 凄惨な予知夢。

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 予知夢を見た。時間は夜か。
 なんだろう、夜にはよくない事がいつも起こる。

 その夢も、どこか肌寒く、心細い夜だった。
 ぼくは何を見ている。
 地面に項垂れる、少女を見ていた。

 何しているんだ、ぼく。早く助けないと。
 早く、助け……ないと。

「あ?」

 唖然とした。
 これは今から何時間後の未来だ。
 ぼくは、先取りした未来の臨時体験をした。

 流れてくるどろっとした赤い液体に手を震わせる。
 その液体は纏わりつくようにぼくの靴に沿って流れた。

 普段の整った美貌が、苦痛に歪む。
 お人形みたいに白く綺麗な肌が一層白く、そして青く染まる。

 まるで最初に出会った時に見た光景そのものだ。
 これは誰だ。間違えるはずもない。

「結愛」

 結愛、結愛、結愛!?
 なんでだ、どうしてだ。
 

 何の罪があって、結愛は刺された。
 いつ、どこで!

 これは、何時の段階の未来だ。
 教えろ、教えろ、教えろォォォ!!!

「はっ」

 目が覚めた。
 気分が悪い。胃の中のものが吐き出される。

 ぼくは転がるように、ベッドから起きる。
 今は何時だ。デジタル時計で確認した。

 午前三時。

 くそ、なんて時間に起きてしまったんだ。その日に起こる未来、つまり、三時以降結愛の安全は保証されないも同然じゃないか! 同じ通り魔の仕業なのか!?

 嗚呼、分からない。
 結愛は今、生きているのか!

 電話だ、そうだ今すぐ電話を……!

 トゥルルル、トゥルルル。

 かかってくれ、頼む。頼む!

「結愛っ」

 二回、三回とコールしても結愛は出ない。
 何故だ、もう被害に合っているのか!?

 結愛……!?

『んん……眠、今何時だと思ってるの?』

 良かった、結愛が生きている。
 はは、良かった、本当に。

 全身の力が抜けて、ベッドに倒れ込む。

『もしかして私の事が心配になったとか。でも安心して。例の通り魔事件は、午後七時から、午前三時の間にしか起きていない。つまり、今の時点で私が生きているって事は、少なくとも、午後七時までは殺されないって事。違う?』

 冷静に考えれば、それもそうか。
 しかも結愛は今、家で寝ているはずだ。

 路上で、通り魔みたいに刺し殺す犯人が、わざわざ家に忍び込んで結愛を殺すとは思えない。だから結愛にはずっと家にいて貰えば、死ぬ事は無いんじゃないか。

 そうだ、ここからはぼく一人で捜査するんだ。
 そしたら結愛が犠牲になる心配はない。

「ご、ごめん。色々動揺していて」
「何か、夢でも見たの?」

 なんと勘のいい事だろう。
 ここばかりは、その勘の良さを発動しないで欲しかった。

「ううん、今から寝るところだからさ」
「あんまり、無理しないでね」
「そっちこそ。起こしてごめん。じゃあ」

 結愛は巻き込めない。

「ん? ああ、学校からのお知らせが来てる」

 メールを確認する事なく昨日は寝てしまったから。
 内容はなんだろう?


、学校……?」

 休校期間が終わった。
 それもそうか、いつまでも学校は休みにならない。
 事件もあれから起きていないとすると、警戒も緩くなって来る事だろう。ただ、そうなると結愛も学校に行く為に、部屋を出る必要がある。

 まるで、結愛が刺されるのが、登校が再開された今日に見計らって行われているみたいじゃないか。いや、焦るな。事件は午後七時以降。結局学校に行こうと、結愛が午後七時までに家に帰れば、今日を耐える事が出来るんだ。

 今は、明日……いや今日になるのか。
 今日に備えてゆっくり寝よう。

 ここで騒いでも意味はない。
 万が一が時に動けないのだけはダメだ。

 体力を温存しておかないと。
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