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第3章 通り魔事件。
第24話 事情聴取。
しおりを挟む誰かの居場所を突き止める。
そんな苦労をちゃちゃっと解決してくれるのは、天下の結愛様だ。誰に聞けば情報を知っているか、その情報を元にどこに行けば会えるかなど。条件さえ揃えばすんなりと会えるもんだ。寧ろ、安藤くんの時みたいに、街中を探し回って見つからないなんて事の方がレアなのだ。
家はすぐに見つかった。一軒家で良かった。
ネットの特定厨もこの手際にはびっくりだろう。
彼女の能力は、どこぞの四次元ポケットから出てくる道具よりも下手すれば有能なのだ。結愛が刺されるという未来しか知れないぼくの中途半端な力とは違ってね。
「ぼくが出るよ」
「お願い」
インターホンを鳴らす。
ちゃんといる未来は確認済みだ。
結愛の未来視は、ポジティブな未来しか見えない。つまり、結愛が刺される事を自分で認知する事は勿論出来ないし、探し相手がいないといったネガティブな未来は投影されない。先の安藤くんは、そうしたネガティブを積み重ねたが故だったのだ。
「なんだよ、お前。って、その制服……」
玄関から出て来たのは、金髪のチャラい男だ。黒いTシャツとジーパンという服装で、いかにも病欠で休んでいたという風貌には見えない。
伊崎先輩は、ぼくの隣にいる結愛の姿を目にすると、酷く狼狽した様子で、玄関の戸を閉めようとする。しかしぼくが寸前に足を挟み込んだ。
「痛っ!?」
「あ、ちっ。なんだよ」
「例の通り魔事件の事で伺いたい事が」
「話す事なんてなにもねぇ」
「じゃあどうして今日学校を休んだんですか」
「疲れてたんだよ」
「どうして、アカウントでの投稿をあの日から辞めたんですか。ちょうど麗奈が刺されたあの日から」
「知らねぇ。もう警察呼ぶぞ、お前ら」
「学校裏サイト。そこには、貴方の名前以外に、被害者の方の名前も多数書かれていた。これがぼくには偶然に思えません」
「知った事か! うぜぇな!」
「じゃあ、一つだけ教えてください」
もう話す事は無いという伊崎先輩に最後の問いかけをした。
「あれは、貴方が犯人なんですか」
「知る訳ねぇだろ俺が! 俺が振られた相手が次々刺されてんだぞ。逆にこっちが聞きてぇよ! あ……」
振られた相手?
「待ってください。じゃあ、この被害者リストは全部、貴方が過去に告白した相手なんですか?」
結愛が堪らず、伊崎先輩に質問をした。
「ああ、そうだよ! もういいだろ。俺は怖くて正直一歩も外に出る気分じゃねえんだ。またアイツがやってきたって思うとな!」
玄関を強い音を立てて閉められてしまった。
これ以上は、無理だな。
「結愛。帰ろう」
「う、うん……」
ぼくらは電車に揺られながら、結愛の家へと向かった。
他でもない、結愛を家へと送る為だ。
聡明な結愛なら、次に狙われる相手が自分であると気が付いている事だろう。学校裏サイトにも、伊崎先輩に告白され、それを振ったという旨の記載が為されていた。
これで犯人に、結愛に標的を絞るきっかけが作られた。
帰り道。口数は少なかったが、伊崎先輩の言葉を何度も噛み砕くようにして少しずつ理解し、既に真相
へと近づきつつあった。
「昨日、悠斗が電話をかけてきたのは。私が本当に刺される夢を見たからなんだね」
ぼくは神妙に頷く。ここで隠しても意味ないだろう。
結愛は一度ブルりと身体を震わせた。
「大丈夫だよ。ぼくが守っているから」
「へえ、悠斗に守れるかな」
「何様のつもりだよ」
「ふふふっ、ごめんなさいっ」
冗談を言えるくらいには、精神は安定している様だ。
「あと気になるのは、伊崎先輩が言っていた、あの言葉よね」
『またアイツがやってきたって思うとな!』
「アイツって誰だろう」
「それは、犯人じゃない?」
「でも、来たってのは。例えば台風とか梅雨みたいに、ある一定期間の間に訪れるって事なのかな」
「一か月前くらいの通り魔事件は、ここから少し離れていたみたいだったけど。多分あれは、伊崎先輩が以前通っていた中学か、あるいは学外の活動、ネットで知り合った女の子のどれかを刺しに行ったんだと思う。それで、遂に麗奈が刺されたのを聞いて、犯人がこの地にも足を踏み入れたと知ったってところじゃないかな」
件数が積み重なるまでは、伊崎先輩の事だ。あまり気付かなかったんじゃなかろうか。しかし、三年もの間によくまあ、何人も手を出したものだ。
結愛までを、毒牙にかけようとしていた事だけは未だに許せる気がしない。
「日向さんは、伊崎先輩を最終的に振ったって事だったのね」
「ああ、確かにそうなるのか。付き合っていた間は犯人に許されたけど、別れた瞬間に狙われた訳だから」
順番的には今日なんだけどな。
太陽が分厚い雲に覆われる。
一気に辺りが暗くなり始めた。
五時過ぎか、そろそろ刻限だな。
「いけね、雨が降ってきそうだ」
「家まで急いだ方が良さそうだね」
結愛の家まであと少しだ。
ここの路地を右に曲がればすぐに。
「あれっ」
「どうしたの、悠斗」
なんだ、この違和感は。
強烈な違和感。既視感という部類に当たるものだ。
もうすぐ日が暮れる頃。太陽が、雲に覆われて薄暗い黄昏時。建物の日陰と重なって、一際暗くなったその場所で、背後に佇む人物にぼくは息を呑む。
黒の……レインコート。
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