【完結】計画的ラブコメ未遂の結愛さん。

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第5章 Sleeping Beauty

第38話 新たな観察者。

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『今のお前に、その資格はない』


 ぼくの予知夢は、とても限定された未来を見ていた。
 学校の教室。昨日会った男と話している。

 資格、なんの話だ。
 その時点までに、ぼくは資格を得なければならない。
 そういう事なのか?

 くそ、それ以上が見えない。
 機関とやらの妨害工作だろうか。

 □■□

 朝。靴箱を開けた。思わず笑ってしまった。
 ぼくを大概にしたらどうだ?
 結愛との出会い、接触の方法は全て見ていた。そう言いたいようだ。これを見てハッキリと分かった。のだ。

 使

 いいや、この場合は招待状と言うべきか。結愛の欠員を受けて、機関が下した決断を是非とも、聞こうじゃないか。

 『放課後、旧校舎音楽準備室で待ってます。晴野唯花』

 晴野唯花。誰だ、この人?

 教室に結愛の姿は無い。当然欠席だ。
 クラスメイトはその空席を気にしつつ、様々な推測を立てていた。昨日の貧血があって今日の休みだ。重大な病気にでもなったと考えているのだろう。

 それはある意味で正解だ。
 何しろ彼女はもう二度とこの場に現れないのだから。

 □■□

 放課後、ぼくは部室へと向かう。
 扉を開けた。

「来てくれたんですね、悠斗さん」



 日の光に染まる頬。
 上目遣いで見つめるのは、一人の美少女。
 煌びやかな銀髪、華奢な身体は人形その物だ。

「君の事は調べたよ。まさか一年下の後輩だとはね」
「はい。悠斗さんが仰る通りです」
「……で、その演技はいつ辞めるんだ?」
「演技、なんの演技でしょうか?」
「ぼくはたかが観察対象。虫かごに入れたカブトムシにそう謙る必要は無い。ぼくになら、愛想も愛嬌も要らないだろう。疲れるだろうから、楽にしたらどうだ?」

 話は変わるが、結愛。ぼくは怒っている。
 きみはぼくにずっと嘘をついていた。

 言っていなかっただけ。
 それは嘘にならない、そう言っても無駄だ。

 ぼくはずっと騙されていたんだ。仕草や表情。
 それらはぼくに近付き取り入ろうとする罠だった。

 態度でずっと嘘をつかれていたんだ。
 結愛に抱いたこの感情も全て嘘。

 だから、保健室にいる結愛を回収される事をぼくは止めなかった。

 ただ一つだけ……彼女がそのまま死ぬなんて未来は許容出来ない。どこかぼくの知らない所で幸せに生きてくれれば。演技もなく、素の彼女で居られる環境でいて欲しい。それがぼくの唯一の願いでもあった。

「ぼくは二の轍を踏むつもりはない。結愛と同様の犠牲を払うつもりもない。もう一度言うぞ、晴野。素の自分で話せ」

 その瞬間、すっと仮面が脱げ落ちた。

「分かりました」

 愛嬌ある顔から、一瞬の変貌。人格がいきなり変わったような強烈な違和感がぼくを襲った。

「改めて自己紹介を頼もうかな」

「私は、天海結愛の代わりに観察者として用意されていた予備人員です。天海結愛の身に不測の事態が陥った際に、抜けた穴を埋める役割を担っています」

 それは知っているとも。
 昨日の話を聞いてからある程度予想も出来ていた。

「よって、天海結愛と同様の関係を築く事がまず第一の目標となります。至急親睦を深める為に───」
「晴野ってロボットみたいだよね」

 これが機関に育てられた人間の正体か?
 結愛までこんなだったら泣くぞさすがに。

「まず一つ訂正しておく。晴野は晴野だ。結愛の代わりなんかじゃない。だから、出会いのシーンからやり直しだ。結愛に特別な思い入れでもあるのかもしれないが、わざわざやり方までトレースする必要なんてないんだよ!」

「……それは」

「多分、結愛は機関の中でも優等生だったんだろ。だから晴野は彼女をずっと尊敬の眼差しで見ていた。つまり結愛になろうとしていたんだ。でもそれは間違えている。結愛が全て正しい訳じゃない、てか今時ラブレターはないだろ、普通に考えて」

 それに心踊らされたのはぼくです。
 本当にありがとうございました。

「晴野が、自分らしさを出してきたら、その時はぼくも唯花と呼ぶ事にするよ」

 ぼくは彼女に笑って見せた。
 結愛よりも幾分かあどけない表情、そりゃ歳下なんだから当たり前だろうけど。一個下がいるなら上もいるのかな。

 晴野の更に代役。考えたくもないな。

「悠斗さんって不思議な方ですね」
「はぁ、なんで?」
「観察者にどうしてそんなに気をかけるのですか。私達はある意味仕事でこの役割を全うしているに過ぎません。そんな私に優しくする必要なんて」
「ぼくのラブコメ道には、女の子には優しくすべしという教訓が記されている。って訳で晴野。デートに行こう」

 相手がエージェントなら強く出ようが問題ない。
 寧ろ相手の思惑になんてさせてやるか。

 向こうが散々ぼくの心を振り回したんだ。
 今度はこっちから惑わせてやる。

 ぼくは晴野をゲームセンターに連れていく。

「さって、と……」
「これは何する所ですか」
「んー、クレーンで景品を取るの」
「でしたら、その奥の台をオススメします」

 なんだ、初見なのにアドバイスって……。
 入れかけた百円を握り直す。

 渋々隣の台へ。硬貨を投入する。
 陽気な音楽と共にクレーンが動く。アームがかなり固い。これは一発で取れる気がするぞ!

「やった……!」
「当然です。これは約束された未来なのです」

 胸が詰まった。
 こいつ……未来視を使いやがったのか!

「あれ程ダメだって言っただろ!」

 ぼくは晴野の肩を掴んだ。
 大声を出したせいで、周りの人が見ている。

 でも構うものか!

「二の轍は踏まないと宣言もした。お前に未来視を使わせたくないんだ。使っちゃいけないんだ。副作用で、晴野までいなくなったら、どうしたらいいんだぼくはっ」

「その場合は、再び代わりの人員を───」

!!」

 ふざけんな、ふざけんな!!
 使い物にならないなら捨てて構わないのか畜生ッ。

 ますます気分が悪くなる……ッ!

「いいか。もう二度とぼくの前で未来視を使うな。このゲームはな、不確定だから楽しいんだ。この景品も、確率を潜り抜けて、偶然の物理が作用するから取れて嬉しいんだ」

 くまのぬいぐるみだった。
 それを晴野へと手渡した。彼女はそこそこの大きさになるそれを、大事そうに抱え込んだ。

「ありがとうございます。大事にします」
「……うん。そうしてくれ」

命がない人形を大切にするなら。
命ある自分の事くらい、もっと大切にして欲しいもんだ。
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