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第2章 異世界攻略編

第16話 一階層ボス戦。

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「『巨大鬼ジャイアント・オーガ』……」
「う、嘘……私が」

 ルナは唖然として、ボスを見ていた。
 口を震わせ、驚愕している。

「ごめんなさい、ごめんなさい。私が……!?」
「ルナ、落ち着け。寧ろ好都合じゃないか」

 ルナは責任を感じていた。
 魔物のいない所、それがボス部屋と気付かずに誘導した。

 ボス部屋は攻略しないと出られない。
 仮に倒せても、例の魔物達が退路を断っている。

 正に絶体絶命的状況だ。

「好都合って、何を言ってるんですが!?」
「大量の魔物、稼ぎたい放題だぜ?」
「今は冗談を言っている場合では!」

 俺はぎゅっとルナの華奢な身体を抱き寄せた。
 背中を優しく撫でてやる。落ち着け、耳元で何度も囁いた。

「俺が何とかする。任せておけ」
「主……」
「言ったろ。俺は天才だからな」

 正直に言えば、ほぼ詰んでいる。
 だが、ルナの心が折れたままでは、その詰みは絶対的だ。
 今俺が弱みを見せてはいけない。
 最優先事項は、ルナを奮い立たせる事だ。

 ふはは、絶体絶命? そんなの、許容範囲内に決まっている。俺はそれを承知でダンジョンに足を踏み入れた。

 転生者のイレイスは言っていた。
 早く強くなれと。ここが踏ん張りどころ、そういう事だろ?

「これより、ボス攻略を開始する。ルナは俺の指示に従い、ボス殲滅に協力しろ。大丈夫だ、勝算はある。まずは敵の攻撃パターンを見極めろ」

 話はそこからだ、と軽い演説を終えた。
 絶望を語るには、温すぎるぜ。

 ルナは腕の中で唇を嚙み締めた。

「主。私は間違っていたかもしれません」
「かもしれないじゃない。お前は間違えている」
「な、なんなんですかっ、もう!」

 俺は平然とした顔で、事実を告げた。

「だってそうだろ? こんな雑魚相手に諦めるだなんて。ルナ、お前はまだ目的を何も遂げていない。連れ去られた女の子を救う為に、俺に付き添っていた、違うか? それがこんなダンジョンの最序盤で足踏みしているなんてお前らしくない」

 さて、攻略を始めようか。

「立てルナ。お前を勝たせてやる」

巨大鬼ジャイアント・オーガ』が棍棒を地面に振り下ろす。どうやらもう、待ってくれないらしいな。ちょうど奴の間合いに入りそうだ。


「……っ、はいっ」

 反撃の狼煙を上げた。
 俺のシナリオ通りなら、ここから巻き返す予定だった。

「あ?」

 ……?

「か、かん、て……い」

 上手く動かない舌でスキルを発動する。

 状態『麻痺』

 いつだ、いつ攻撃を受けた?
 俺は必死に頭を回転させる。

巨大鬼ジャイアント・オーガ』がゆっくりと迫ってくる。横にいたルナも派手に地面に横たわって動けていなかった。顔を歪ませ、必死に藻掻いている。

 不可視の攻撃? ただ俺が見ていなかっただけか?
 奴はいつ仕掛けて来た? 兆候は無かったか?

 考えろ、考えろ……!

「そうか、あの時!」

 俺達が戦いを決心した直後。
 奴は棍棒を地面に叩き付けていた。

 間合いの外で、威嚇のつもりだと考えていた。
 でも恐らく違う。あれ自体が攻撃だったんだ。

 あれが仮に魔法の類だった場合、まだ勝機はある。
 頼む、一か八か賭けてみるか。

 俺は剣を取り出した。
 そして、太腿に突き付ける。

「ああああ!?」
「主!」

 ルナが悲痛の声を上げる。

 スキル『鑑定眼』。

 状態 なし

「解けたっ」

 ルナの腕にもチクリと刺し込む。

「……っ、今のは」
「この剣で、麻痺を無効化させた。奴は棍棒を地面に叩き付ける事で、麻痺を振り撒く事が出来る。しかしそれも、到達までに僅かなタイムラグがあった。避ける事は出来るはずだ」
「今の一瞬でそこまで」

 何、一秒の間に数十と思考を練っただけだ。
 特別な事は何もしていない。

「ルナ、俺の合図に従え。行くぞ」
「はいっ」

 俺とルナは駆けだした。
巨大鬼ジャイアント・オーガ』は動揺を顕にする。麻痺を解いた事に疑問を持っているのだろう。その隙、利用させてもらうぞ。

 棍棒が振り上げられた。地面を抉る。

「来るぞッ!」

『鑑定眼』で地面を見た。
 すると、水面上に靡く波紋の如く、同心円状に広がる円がこちらにやって来ていた。この線を踏めば俺は再び『麻痺』を食らう。

「跳べ」

 俺の合図でルナは攻撃を避ける。
 対策はばっちりだ、今度こそ反撃する!

「グァァアアアア!」

 ルナは懐に入って、剣を突き入れた。
 ガキン、金属音が響く。

「硬いッ」

 やはり無理か。ステータスが足りないんだ。
 別の攻撃パターンを考えるしかない。

 ルナは距離を取った。
 棍棒の攻撃。俺とルナは再び跳躍する。

 忌々しそうに、俺達を睥睨する階層主。
 その巨躯も今や恐怖の対象ではなく、ただの討伐対象だ。

 ドン、ドン、ドン! 続けて三回打ち付ける。

 しかも円の中心が異なる地点だ。
 これでは単純な跳躍じゃ避けられない。

「ルナ、掴まれ」
「ど、どこ触ってるんですか変態」
「背中だよ、なんでお前の胸を触るんだ」
「ひどいっ、私をどれだけ怒らせれば!」
「こら、暴れるな!」

 ボスより暴徒化するルナを抱えて、攻撃を避けた。
 直接視認できる俺だからこそ、攻撃を避けられる。

「ボスはどこだ」
「後ろです!」

 しまった、後ろに回られていた。
 俺が回避に専念していたばっかりに。

「……ちっ、はぁぁあ!」

 ルナが剣を強引に振るう。
巨大鬼ジャイアント・オーガ』は

「だめです、やっぱり私じゃ」

 確かに、どのゲームよりハードモードだな。
 縛りプレイをしている気分だ。

「『グァアァアアアア』」

巨大鬼ジャイアント・オーガ』が吠えた。
 その刹那、身体が鉛のように重くなった。

「また、『麻痺』だと……!」

 剣を突き刺す、自傷行為は思ったより精神に来る。
 今のは、棍棒の攻撃じゃない。

 奴の咆哮で麻痺したんだ。

「今の吠声、さっきとは違いました」
「分かるのか?」
「息を吸う予備動作が長かったです」

 なるほど。見分けは可能か。
 ピースが少しずつ填まり始めたぞ。

「ルナ。奴の身体に上って高度を取れ。そして、後ろから奴の首を狙え」
「首、ですか」
「ああ、覚えてるだろ。ルナがさっき攻撃した時」

 奴は、首を庇って腕を掲げた。

「そうか……あの敵の弱点は」
「ああ。その隙は俺が全力で作ってやる」

 あとは俺の実力次第だ。
 作戦はすでに頭に入っている。
 実行できるよな、俺。

「次の咆哮を合図に、『隠密行動』を使って突撃しろ」
「分かりました」

 奴が息を吸った。
 予備動作は長い。次が来る。

「───スキル『挑発』」
「───スキル『隠密行動』」

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