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第2章 異世界攻略編
第17話 鬼狩りの称号。
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「『グァアァアアアア』」
「来る」
俺はさながらバトル漫画の主人公だ。
階層主を相手に、俺は全身でヘイトを買う。
凶暴な顎から、『咆哮』が飛ぶ。
俺は静かに剣を掲げ、一度大きく振り払う。
「お返しだ!」
この剣に付与されたスキルは『反射』。
消滅させる以外に練度さえあれば、その攻撃を弾き返す事もできるだろう。
タイミングは『鑑定眼』が教えてくれる。
不可視の音波が空気を震わせた。
「グァ、ァァァ……!」
音波が跳ね返る。
成功した。階層主に明確な隙が生まれた。
「よしっ、ルナ……今だ!」
『隠密行動』を使いながら、膝、胸、肩と上がり、頭の頂上まで軽々しく上りながら、ルナは勢いよく剣を振り上げた。全身が麻痺した今、奴の首は無防備である。
「はぁぁあああ!」
腹から響かせた声でルナが剣を振り下ろす。
深緑の体液をぶちまけて、奴は苦悶の声を漏らした。
「よしっ」
「やりました、主」
ルナが小さくガッツポーズする。可愛い。
今の表情をレンダリングして額縁に飾っておきたい。
奴は性懲りも無く二度目の『咆哮』を構えた。
「そんなに欲しいなら、お代わりだ!」
ドゥン……!
音波が共鳴し、『巨大鬼』が泡を吹く。ハッキリ言おう。これは正規の戦い方ではない。だが、僅か二人の攻防で階層主を着実に追い詰めている。
「瀕死の重傷を負ったみたいだ。ルナ、一旦戻れ」
「えっ? でも、ここで畳みかけないと」
「引くんだ、俺に従え」
釈然としない様子のルナだったが、その後の奴の行動で俺の言葉が正しかった事を告げた。なんと棍棒を派手に放り投げ、武器を持ち換えたのだ。
「鎖、でしょうか」
「ああ、そしてその先についているのは」
"鉄球"。
鎖付の鉄球、超広範囲を殲滅する最終形態。
俺の期待を裏切らない奴だ。形態変化なんてお約束を律儀に守りやがって。
さて、どんな攻撃が飛んでくる?
「来ます!」
鉄球が重々しく地面へと落ちる。
その刹那、地面が急激に冷えあがった。
「魔法攻撃!?」
帯状に連なる攻撃範囲。
俺はルナを突き飛ばした!
「主ッ」
「くそっ」
氷結が地面に華を咲かせた。
俺の右足が僅かに凍り付いている。
今のは魔法か、それは分かる。氷結魔法の一種、それが鉄球の魔法属性となって変化し、衝撃を飛ばしたのか!?
めちゃくちゃだ!
剣を突き立てる。氷結の一部が砕けた。
「見てください、あの鉄球、色が!」
今度は赤。
「おいおい嘘だろ!」
俺とルナは全力で回避した。
轟ッ、焔が空気を焼いて陽炎を立たせた。
肺が焼けるように熱い、氷が一気に蒸発した!
「今度は火属性魔法だと!?」
もうなりふり構わないってか!?
攻撃が全部重い、その余波だけで軽く死んでしまう!
粉塵が目を奪う。衝撃が次に伝わる。
「うぁ!?」
俺の身体がブレた。
肩や背中に激痛が走る。
名前:レイ レベル:3
HP142/250 MP100/100
「主!?」
「俺に構うな! あと一発加えれば奴は死ぬッ!!」
ルナはごくりと唾を飲んだ。
「あの鉄球は遠心力で扱っている以上、懐に入られると防御出来ないはずだ。だが今の俺は、全身を痛めて動けない。行けるのは、ルナ。お前しかいない!」
ルナが反論する前に俺は剣をルナに手渡す。
「ルナ。俺の剣を使え。魔法攻撃はそれで防げる」
「それだと、主が……!」
「大丈夫だ。こっちにも策はある」
安心させる為の嘘を言った。
正直、ルナに託す以外の方法が無いだけだ。
「ちゃんと生き延びて見せるから。早く行け」
剣もなしに攻撃は防げない。
生き延びるなんて不可能だ。
だから、この言葉も……嘘だ。
「さあ行け」
□■□
私は二本を剣を持って疾駆する。
『隠密行動』と『軽業』を使って軽快に走りつつも気配を隠しながら、階層主の元に立ち向かう。
主はよくわからない人だった。
最低野郎かと思えば私を気遣ったり。
へらへらとしている割に、平然と命を懸ける。
今だって、唯一の生命線である剣を私に託した。
今の主に攻撃を防ぐ手立てはない。
主は言った。「俺の剣になれ」と。
あの取引は、彼が死んだら何もかも終わり。
かつて捨て去った願いも、一生叶わないだろう。
主は自分勝手すぎるんだ。
自分は弱い癖にダンジョンに平然と足を踏み入れる。まだ初日だって言うのに、一年はかかるとされていた階層主を相手に善戦を繰り広げていた。
泥棒に盗めない物。大切な物は知識と経験。
私にもちゃんと備わっているだろうか?
「ふっ!」
風を切りながら、疾走する。
私は主の事をそこそこ気に入っている。
あの人は、私を奴隷ではなくて相棒と言ってくれた。
凄く、嬉しかったんだ。
だから私はあの人に死んでほしくない。
こんな事いったら、主にまた揶揄われそうだけど。
「私は……二人で、生き残りたいッ!!!」
強く地面を踏み締める。
背後、死角を取った。
これで……!
「───」
待って。
何かおかしい。
私の心が瞬時にざわめいた。
まるで、かけ違った歯車が無理やり動いているような、気持ちの悪いチグハグの感情の連鎖。
スキル『冷静』。冷めた思考で状況を客観視した。
攻撃が少なすぎる。
まるで、見えない力が働いていたみたいに、私は誘導されてここまでやって来れた。
奴は今、どこを向いている?
奴が今、狙っているのはなんだ。
まさか。まさか……!
「主!?」
私は目を疑った。
主は血溜まりの中、地に伏せていた。
『巨大鬼』の拳が、地面を抉り瓦礫を砕き割って主を確実に捉えていた。
スキル『挑発』。
私に攻撃が向かないよう、最後までアシストして……!
「いやぁあああああ……!?」
剣を振りかぶる。
涙が溢れて、視界が歪んだ。
歯を食いしばる。拳に血が滲んだ。
私の絶叫にようやく気付いた相手。
鉄球による波状攻撃が私を襲った。
「許さない、せめてお前だけはァァァァ!!」
主の剣を地面に突き刺す。
魔法が遮断され、吹き荒れた炎と氷が一瞬にして消え失せた。残る一本を携え、空間へと跳躍する。
奴が首を庇う。しかし、一瞬遅い。
「うぁぁぁぁああああああああッッッ……!!」
喉が焼き切れる程の絶叫と共に、剣を振り下ろす。
首からメキメキと音がした。
完全に断ち切った音だ、階層主が倒れ込む。
血の味が口一杯に広がる。頭が焼けるように痛い。
四肢の筋肉が痺れて、声も上手く出せない。
「ぁぁ……あぁぁ」
剣を投げ捨てて、主の元に向かう。
血は生温かかった。
「主、主……っ」
私のせいだ。
私が弱かったばっかりに、主を死なせてしまった。
階層主を倒した?
だから何だ、私は……主を、見捨てて。
「ぁ、ぁあああ……」
□■□
───第一階層主『巨大鬼』の討伐を完了しました。
───称号【鬼狩り】を獲得しました。
───スキル『火魔法』を獲得しました。
システムメッセージを聞き流しながら、俺は思う。
ところで、俺はいつ起きたらいいのだろう。
俺は少し離れた場所で泣き叫ぶルナを見ていた。
スキル『幻惑』。いやぁ、思ったより有能だ。
まだ熟練度が低い為か、幻惑をかける対象を上手く選べない等の弊害はあるが概ね良好だと言えよう。
あれ。ルナの好感度メーターが爆増している。
12→30
───スキル『隠密行動』を獲得しました。
───スキル『体術』を獲得しました。
───スキル『並列思考』を獲得しました。
なんでだ?
うーん。まあいっか。
「ふはは、最強最強!」
いや、あんまり笑えない。
俺は殉職した英雄かよ。
何も無い場所で泣き叫び、蹲るルナが流石に不憫に思えてきたので俺は満を持してスキルを解いた。
「あ、あれ……?」
「お疲れ。ナイスファイトだったぜ、ルナ」
爽やかイケメン風挨拶で事なきを得る作戦。
俺の清々しいサムズアップ。
ルナはぼかん、と俺を見ていた。
一秒、二秒、三秒。
三秒ピッタリ経った瞬間、ルナは額に青筋を立てながら実体である俺の方に鬼神の如き鋭い視線を向けた。
「お話があります」
あっはい。
「来る」
俺はさながらバトル漫画の主人公だ。
階層主を相手に、俺は全身でヘイトを買う。
凶暴な顎から、『咆哮』が飛ぶ。
俺は静かに剣を掲げ、一度大きく振り払う。
「お返しだ!」
この剣に付与されたスキルは『反射』。
消滅させる以外に練度さえあれば、その攻撃を弾き返す事もできるだろう。
タイミングは『鑑定眼』が教えてくれる。
不可視の音波が空気を震わせた。
「グァ、ァァァ……!」
音波が跳ね返る。
成功した。階層主に明確な隙が生まれた。
「よしっ、ルナ……今だ!」
『隠密行動』を使いながら、膝、胸、肩と上がり、頭の頂上まで軽々しく上りながら、ルナは勢いよく剣を振り上げた。全身が麻痺した今、奴の首は無防備である。
「はぁぁあああ!」
腹から響かせた声でルナが剣を振り下ろす。
深緑の体液をぶちまけて、奴は苦悶の声を漏らした。
「よしっ」
「やりました、主」
ルナが小さくガッツポーズする。可愛い。
今の表情をレンダリングして額縁に飾っておきたい。
奴は性懲りも無く二度目の『咆哮』を構えた。
「そんなに欲しいなら、お代わりだ!」
ドゥン……!
音波が共鳴し、『巨大鬼』が泡を吹く。ハッキリ言おう。これは正規の戦い方ではない。だが、僅か二人の攻防で階層主を着実に追い詰めている。
「瀕死の重傷を負ったみたいだ。ルナ、一旦戻れ」
「えっ? でも、ここで畳みかけないと」
「引くんだ、俺に従え」
釈然としない様子のルナだったが、その後の奴の行動で俺の言葉が正しかった事を告げた。なんと棍棒を派手に放り投げ、武器を持ち換えたのだ。
「鎖、でしょうか」
「ああ、そしてその先についているのは」
"鉄球"。
鎖付の鉄球、超広範囲を殲滅する最終形態。
俺の期待を裏切らない奴だ。形態変化なんてお約束を律儀に守りやがって。
さて、どんな攻撃が飛んでくる?
「来ます!」
鉄球が重々しく地面へと落ちる。
その刹那、地面が急激に冷えあがった。
「魔法攻撃!?」
帯状に連なる攻撃範囲。
俺はルナを突き飛ばした!
「主ッ」
「くそっ」
氷結が地面に華を咲かせた。
俺の右足が僅かに凍り付いている。
今のは魔法か、それは分かる。氷結魔法の一種、それが鉄球の魔法属性となって変化し、衝撃を飛ばしたのか!?
めちゃくちゃだ!
剣を突き立てる。氷結の一部が砕けた。
「見てください、あの鉄球、色が!」
今度は赤。
「おいおい嘘だろ!」
俺とルナは全力で回避した。
轟ッ、焔が空気を焼いて陽炎を立たせた。
肺が焼けるように熱い、氷が一気に蒸発した!
「今度は火属性魔法だと!?」
もうなりふり構わないってか!?
攻撃が全部重い、その余波だけで軽く死んでしまう!
粉塵が目を奪う。衝撃が次に伝わる。
「うぁ!?」
俺の身体がブレた。
肩や背中に激痛が走る。
名前:レイ レベル:3
HP142/250 MP100/100
「主!?」
「俺に構うな! あと一発加えれば奴は死ぬッ!!」
ルナはごくりと唾を飲んだ。
「あの鉄球は遠心力で扱っている以上、懐に入られると防御出来ないはずだ。だが今の俺は、全身を痛めて動けない。行けるのは、ルナ。お前しかいない!」
ルナが反論する前に俺は剣をルナに手渡す。
「ルナ。俺の剣を使え。魔法攻撃はそれで防げる」
「それだと、主が……!」
「大丈夫だ。こっちにも策はある」
安心させる為の嘘を言った。
正直、ルナに託す以外の方法が無いだけだ。
「ちゃんと生き延びて見せるから。早く行け」
剣もなしに攻撃は防げない。
生き延びるなんて不可能だ。
だから、この言葉も……嘘だ。
「さあ行け」
□■□
私は二本を剣を持って疾駆する。
『隠密行動』と『軽業』を使って軽快に走りつつも気配を隠しながら、階層主の元に立ち向かう。
主はよくわからない人だった。
最低野郎かと思えば私を気遣ったり。
へらへらとしている割に、平然と命を懸ける。
今だって、唯一の生命線である剣を私に託した。
今の主に攻撃を防ぐ手立てはない。
主は言った。「俺の剣になれ」と。
あの取引は、彼が死んだら何もかも終わり。
かつて捨て去った願いも、一生叶わないだろう。
主は自分勝手すぎるんだ。
自分は弱い癖にダンジョンに平然と足を踏み入れる。まだ初日だって言うのに、一年はかかるとされていた階層主を相手に善戦を繰り広げていた。
泥棒に盗めない物。大切な物は知識と経験。
私にもちゃんと備わっているだろうか?
「ふっ!」
風を切りながら、疾走する。
私は主の事をそこそこ気に入っている。
あの人は、私を奴隷ではなくて相棒と言ってくれた。
凄く、嬉しかったんだ。
だから私はあの人に死んでほしくない。
こんな事いったら、主にまた揶揄われそうだけど。
「私は……二人で、生き残りたいッ!!!」
強く地面を踏み締める。
背後、死角を取った。
これで……!
「───」
待って。
何かおかしい。
私の心が瞬時にざわめいた。
まるで、かけ違った歯車が無理やり動いているような、気持ちの悪いチグハグの感情の連鎖。
スキル『冷静』。冷めた思考で状況を客観視した。
攻撃が少なすぎる。
まるで、見えない力が働いていたみたいに、私は誘導されてここまでやって来れた。
奴は今、どこを向いている?
奴が今、狙っているのはなんだ。
まさか。まさか……!
「主!?」
私は目を疑った。
主は血溜まりの中、地に伏せていた。
『巨大鬼』の拳が、地面を抉り瓦礫を砕き割って主を確実に捉えていた。
スキル『挑発』。
私に攻撃が向かないよう、最後までアシストして……!
「いやぁあああああ……!?」
剣を振りかぶる。
涙が溢れて、視界が歪んだ。
歯を食いしばる。拳に血が滲んだ。
私の絶叫にようやく気付いた相手。
鉄球による波状攻撃が私を襲った。
「許さない、せめてお前だけはァァァァ!!」
主の剣を地面に突き刺す。
魔法が遮断され、吹き荒れた炎と氷が一瞬にして消え失せた。残る一本を携え、空間へと跳躍する。
奴が首を庇う。しかし、一瞬遅い。
「うぁぁぁぁああああああああッッッ……!!」
喉が焼き切れる程の絶叫と共に、剣を振り下ろす。
首からメキメキと音がした。
完全に断ち切った音だ、階層主が倒れ込む。
血の味が口一杯に広がる。頭が焼けるように痛い。
四肢の筋肉が痺れて、声も上手く出せない。
「ぁぁ……あぁぁ」
剣を投げ捨てて、主の元に向かう。
血は生温かかった。
「主、主……っ」
私のせいだ。
私が弱かったばっかりに、主を死なせてしまった。
階層主を倒した?
だから何だ、私は……主を、見捨てて。
「ぁ、ぁあああ……」
□■□
───第一階層主『巨大鬼』の討伐を完了しました。
───称号【鬼狩り】を獲得しました。
───スキル『火魔法』を獲得しました。
システムメッセージを聞き流しながら、俺は思う。
ところで、俺はいつ起きたらいいのだろう。
俺は少し離れた場所で泣き叫ぶルナを見ていた。
スキル『幻惑』。いやぁ、思ったより有能だ。
まだ熟練度が低い為か、幻惑をかける対象を上手く選べない等の弊害はあるが概ね良好だと言えよう。
あれ。ルナの好感度メーターが爆増している。
12→30
───スキル『隠密行動』を獲得しました。
───スキル『体術』を獲得しました。
───スキル『並列思考』を獲得しました。
なんでだ?
うーん。まあいっか。
「ふはは、最強最強!」
いや、あんまり笑えない。
俺は殉職した英雄かよ。
何も無い場所で泣き叫び、蹲るルナが流石に不憫に思えてきたので俺は満を持してスキルを解いた。
「あ、あれ……?」
「お疲れ。ナイスファイトだったぜ、ルナ」
爽やかイケメン風挨拶で事なきを得る作戦。
俺の清々しいサムズアップ。
ルナはぼかん、と俺を見ていた。
一秒、二秒、三秒。
三秒ピッタリ経った瞬間、ルナは額に青筋を立てながら実体である俺の方に鬼神の如き鋭い視線を向けた。
「お話があります」
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