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第2章 異世界攻略編
第31話 あれは誰ですか……?
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「へ、変じゃないですか?」
照れながらそんな事を尋ねる彼女の顔は、ラノベ表紙を飾るヒロイン達に負けないくらい可愛らしい物だった。オシャレを覚えた女の子が豹変するという話は小耳くらいに聞いた事はあるが、普段から異性と触れ合う俺ですら頬が火照るのを実感した。
『鍛冶種』特有の褐色がかった肌。健康的な艶のある身体とよく似合うワンピースタイプの戦闘服。薄い青色にウェーブのかかった髪をピンピンと指で解しながら、俺の感想を横目で見つつ待っていた。
「似合ってるよ。凄く……見違えた」
才能の原石は他の部分で発揮された。
まさか、ここまで爆発的に化けるなんて。
「主、あれは誰ですか……?」
「聞いて驚け。彼女は、クレアだ」
事の発端は、クレアが装備等も一新したいと言い出した事だ。俺は性能重視で選んでしまう効率厨でありルナもそういう節があるのだが、クレアは一味違う。服屋に入り、あれこれと試着すると、ものの三十分程度で、自ら見違えて見せた。
戦闘の負荷にも耐えられる冒険者用の丈夫な生地を使っているとかで、戦闘服にオシャレという概念を持ち出した過去の偉人を褒めるべきか、はたまたそれを見事着こなしたクレアを称えるべきか、俺は複雑な感情が入り混じっていた。
ワンポイントのアクセサリーとして身に着ける黄金のイヤリングは、『俊敏』と『幸運』のスキルが付与された魔道具の一種。冒険者専用店を渡り歩く彼女は、俺達よりも立派に冒険者をやっていたのである。
「えへへ、実はクレア、かなり冒険者オタクでして」
と照れながら笑う彼女を尻目に俺達は呆然としていた。
冒険者御用達施設を何一つ知らない俺達は随分と遅れている。
「レイさん、クレア可愛いですか!?」
「まじで可愛い」
そして正真正銘、俺はクレアに見惚れてしまった!
「という事があったんだね……ほ~」
「ん。女の子としてのポテンシャルはあった」
シャルとノエルは合流後感嘆の溜息をついていた。
二人も俺達と比べると、オシャレ度は高い方だ。
シャルはチュニックにチェック柄スカートというコーディネートで、シャルが持つ優れた容姿を引き立たせる事に貢献している。
ノエルは魔法師の分、地味になりがちな所を、魔女帽の形だったり、ソックスの柄、時にはタイツに変えたりと日ごとに少しずつ使い分けているようだった。
「ルナ、オシャレはこれから勉強しような」
「わ、分かってます」
ルナも思うところはあるようで、珍しく素直に頷いた。
「それで、肝心の装備はどうなったの?」
「ああ、それについてはちゃんと手に入ったよ」
ルナは自慢げに腰に提げた白鞘を見せる。
「これは、ボス戦の時までとっておきます」
「そうなのか?」
「はい。出来るだけ長く使いたいですから」
確かに、そのクラスの剣は何本も生産できる代物ではないだろう。大事に扱って困る事は無いだろうし、二階層の雑魚相手に使うのに出し惜しむ気持ちも分かる。
「分かった。それじゃ、出来るだけ早くボスを倒さないとな」
それにはまず例の濃霧。
二階層で最も厄介な物と相手しなくては。
攻略開始から一週間。
二階層の森林地帯は、奥へ進む程霧が濃くなる。
視覚情報の大部分を遮断された今、ルナが持つ『敵感知』スキルを頼りに慎重に歩みを進めている。魔物の強さ自体は問題ない。しかし、問題なのは方向感覚だ。
最悪の場合、迷宮内で遭難というリスクがある以上、急いで突破するのはあまりに危険だ。いくら人数が増えたとてそれは変わらない。
「敵がいます、前方に四体程」
ルナの声に、全員が武器を構える。
俺も《鑑識眼》を使って探りを入れた。
「いない……よね」
シャルは不安げに確認する。
妙だ。敵の姿が見えない。
敵はどこだ、どこから俺達を狙っている。
「きゃっ」
第一声は、シャルだった。
俺は急いでシャルの元へ。
彼女は無事だ、だが何かがおかしい。
「レイくん、私……武器が」
そんな!?
シャルが先程まで持っていた武器がない。
奪われた、魔物の仕業なのか!?
「ま、待って……」
「ノエルか!?」
「蔓が、上から……」
───上!?
俺はバッと上を見上げた。
夥しい数の蔓が俺達を狙っていた。
「ひっ」
誰かが悲鳴を上げる。
気持ちは分かる、俺だって逃げ出したくなった。
『食霊樹』
「キシャァァァ……ッッ!!」
蔓が一斉に襲ってくる。
固まっていない分かなり厄介だっ!
「うっ……手首が」
ルナの手首が巻き付かれている。
そこから全身に蔓を伸ばしていく。
「ノエル、魔法は……っ!?」
「蔓が、邪魔で……んっ、くっ!?」
絡まって取れそうにない。
俺にも蔓が伸びてきた。
剣を持てば、硬直を狙われる。
なら、他の方法だ!
「魔法『火球』ァァ」
焼く方向にシフト。
「ノエル、今助けるっ」
「ん、ありがと」
片っ端から炎で焼き焦がす。
接近戦が苦手なノエルを先に助けた。
「私もっ、『灼熱』ッ」
轟ッ、と熱風が押し寄せる。
シャルは魔法で自衛に徹していた。
「ルナはっ!?」
「こっちも大丈夫ですっ!」
本体を狙うべく、足を上手く絡め上に登っている。
絡められた状態を逆手に使うとは。
だが長期戦で、不利になるのはこっちだ。
魔物は四体、その内一体でも倒さなければ。
「やぁあああああ!!」
ドコォンッッ!!!
地震かと錯覚する衝撃だった。
その原因は、槌を振り回す少女。
狙っているのは……近くの大樹!?
「木を叩けば、落ちてきませんかねっ!?」
「な、なるほど……!」
本体を直接狙うより、バランスを崩させて落ちた所を袋叩きにする作戦か。あのクレアが頭を使った戦い方をしていた。
「分かった、俺も手伝おう。シャル、狙いを」
奴らが支えとする枝葉に目掛けて魔法を撃ち込む。蔓を絡ませている分木々との連結は強く影響も受けやすい。
ゴゴゴ……と音を立て木が倒壊する。
「キシャァ!?」
「ルナッ」
「───っ、すぅぅ……」
重心を下げ、一気に地面を蹴る。
「はァァァァッ!!」
深く踏み込み、その勢いで剣を振り下ろす。
ルナの身体能力は、相当なものだ。
隙を見せた今、奴はただの餌だ。
ザンッッッ!!!
細かく切り刻んだルナは体液ごと振り払う。
「残り三体は……」
蔓がさっと引いていく。
「逃げた……?」
案外あっさりしていたな。
「あー、私の剣持っていかれちゃった」
しょぼんとシャルが凹んでいた。
その時、ルナが我に返って自身の身体をぺたぺた触る。
そして……「嘘っ」、そう震えた声で口にした。
「ない……ないっ」
「ルナ?」
「主に頂いた剣が……あの白鞘が」
無い。
『白輝の光斬剣』が奪われたっ。
「ルナ。あの魔物、まだ追えるな」
「は、はいっ……」
「急ぐぞ、絶対に仕留める。クレアもついてこい!」
「分かりましたっ!!」
最初の交錯時。武器だけを盗まれた。
そんな習性があの魔物にあるのだろうか。
俺は走りながら、それだけがずっと気になっていた。
照れながらそんな事を尋ねる彼女の顔は、ラノベ表紙を飾るヒロイン達に負けないくらい可愛らしい物だった。オシャレを覚えた女の子が豹変するという話は小耳くらいに聞いた事はあるが、普段から異性と触れ合う俺ですら頬が火照るのを実感した。
『鍛冶種』特有の褐色がかった肌。健康的な艶のある身体とよく似合うワンピースタイプの戦闘服。薄い青色にウェーブのかかった髪をピンピンと指で解しながら、俺の感想を横目で見つつ待っていた。
「似合ってるよ。凄く……見違えた」
才能の原石は他の部分で発揮された。
まさか、ここまで爆発的に化けるなんて。
「主、あれは誰ですか……?」
「聞いて驚け。彼女は、クレアだ」
事の発端は、クレアが装備等も一新したいと言い出した事だ。俺は性能重視で選んでしまう効率厨でありルナもそういう節があるのだが、クレアは一味違う。服屋に入り、あれこれと試着すると、ものの三十分程度で、自ら見違えて見せた。
戦闘の負荷にも耐えられる冒険者用の丈夫な生地を使っているとかで、戦闘服にオシャレという概念を持ち出した過去の偉人を褒めるべきか、はたまたそれを見事着こなしたクレアを称えるべきか、俺は複雑な感情が入り混じっていた。
ワンポイントのアクセサリーとして身に着ける黄金のイヤリングは、『俊敏』と『幸運』のスキルが付与された魔道具の一種。冒険者専用店を渡り歩く彼女は、俺達よりも立派に冒険者をやっていたのである。
「えへへ、実はクレア、かなり冒険者オタクでして」
と照れながら笑う彼女を尻目に俺達は呆然としていた。
冒険者御用達施設を何一つ知らない俺達は随分と遅れている。
「レイさん、クレア可愛いですか!?」
「まじで可愛い」
そして正真正銘、俺はクレアに見惚れてしまった!
「という事があったんだね……ほ~」
「ん。女の子としてのポテンシャルはあった」
シャルとノエルは合流後感嘆の溜息をついていた。
二人も俺達と比べると、オシャレ度は高い方だ。
シャルはチュニックにチェック柄スカートというコーディネートで、シャルが持つ優れた容姿を引き立たせる事に貢献している。
ノエルは魔法師の分、地味になりがちな所を、魔女帽の形だったり、ソックスの柄、時にはタイツに変えたりと日ごとに少しずつ使い分けているようだった。
「ルナ、オシャレはこれから勉強しような」
「わ、分かってます」
ルナも思うところはあるようで、珍しく素直に頷いた。
「それで、肝心の装備はどうなったの?」
「ああ、それについてはちゃんと手に入ったよ」
ルナは自慢げに腰に提げた白鞘を見せる。
「これは、ボス戦の時までとっておきます」
「そうなのか?」
「はい。出来るだけ長く使いたいですから」
確かに、そのクラスの剣は何本も生産できる代物ではないだろう。大事に扱って困る事は無いだろうし、二階層の雑魚相手に使うのに出し惜しむ気持ちも分かる。
「分かった。それじゃ、出来るだけ早くボスを倒さないとな」
それにはまず例の濃霧。
二階層で最も厄介な物と相手しなくては。
攻略開始から一週間。
二階層の森林地帯は、奥へ進む程霧が濃くなる。
視覚情報の大部分を遮断された今、ルナが持つ『敵感知』スキルを頼りに慎重に歩みを進めている。魔物の強さ自体は問題ない。しかし、問題なのは方向感覚だ。
最悪の場合、迷宮内で遭難というリスクがある以上、急いで突破するのはあまりに危険だ。いくら人数が増えたとてそれは変わらない。
「敵がいます、前方に四体程」
ルナの声に、全員が武器を構える。
俺も《鑑識眼》を使って探りを入れた。
「いない……よね」
シャルは不安げに確認する。
妙だ。敵の姿が見えない。
敵はどこだ、どこから俺達を狙っている。
「きゃっ」
第一声は、シャルだった。
俺は急いでシャルの元へ。
彼女は無事だ、だが何かがおかしい。
「レイくん、私……武器が」
そんな!?
シャルが先程まで持っていた武器がない。
奪われた、魔物の仕業なのか!?
「ま、待って……」
「ノエルか!?」
「蔓が、上から……」
───上!?
俺はバッと上を見上げた。
夥しい数の蔓が俺達を狙っていた。
「ひっ」
誰かが悲鳴を上げる。
気持ちは分かる、俺だって逃げ出したくなった。
『食霊樹』
「キシャァァァ……ッッ!!」
蔓が一斉に襲ってくる。
固まっていない分かなり厄介だっ!
「うっ……手首が」
ルナの手首が巻き付かれている。
そこから全身に蔓を伸ばしていく。
「ノエル、魔法は……っ!?」
「蔓が、邪魔で……んっ、くっ!?」
絡まって取れそうにない。
俺にも蔓が伸びてきた。
剣を持てば、硬直を狙われる。
なら、他の方法だ!
「魔法『火球』ァァ」
焼く方向にシフト。
「ノエル、今助けるっ」
「ん、ありがと」
片っ端から炎で焼き焦がす。
接近戦が苦手なノエルを先に助けた。
「私もっ、『灼熱』ッ」
轟ッ、と熱風が押し寄せる。
シャルは魔法で自衛に徹していた。
「ルナはっ!?」
「こっちも大丈夫ですっ!」
本体を狙うべく、足を上手く絡め上に登っている。
絡められた状態を逆手に使うとは。
だが長期戦で、不利になるのはこっちだ。
魔物は四体、その内一体でも倒さなければ。
「やぁあああああ!!」
ドコォンッッ!!!
地震かと錯覚する衝撃だった。
その原因は、槌を振り回す少女。
狙っているのは……近くの大樹!?
「木を叩けば、落ちてきませんかねっ!?」
「な、なるほど……!」
本体を直接狙うより、バランスを崩させて落ちた所を袋叩きにする作戦か。あのクレアが頭を使った戦い方をしていた。
「分かった、俺も手伝おう。シャル、狙いを」
奴らが支えとする枝葉に目掛けて魔法を撃ち込む。蔓を絡ませている分木々との連結は強く影響も受けやすい。
ゴゴゴ……と音を立て木が倒壊する。
「キシャァ!?」
「ルナッ」
「───っ、すぅぅ……」
重心を下げ、一気に地面を蹴る。
「はァァァァッ!!」
深く踏み込み、その勢いで剣を振り下ろす。
ルナの身体能力は、相当なものだ。
隙を見せた今、奴はただの餌だ。
ザンッッッ!!!
細かく切り刻んだルナは体液ごと振り払う。
「残り三体は……」
蔓がさっと引いていく。
「逃げた……?」
案外あっさりしていたな。
「あー、私の剣持っていかれちゃった」
しょぼんとシャルが凹んでいた。
その時、ルナが我に返って自身の身体をぺたぺた触る。
そして……「嘘っ」、そう震えた声で口にした。
「ない……ないっ」
「ルナ?」
「主に頂いた剣が……あの白鞘が」
無い。
『白輝の光斬剣』が奪われたっ。
「ルナ。あの魔物、まだ追えるな」
「は、はいっ……」
「急ぐぞ、絶対に仕留める。クレアもついてこい!」
「分かりましたっ!!」
最初の交錯時。武器だけを盗まれた。
そんな習性があの魔物にあるのだろうか。
俺は走りながら、それだけがずっと気になっていた。
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