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第2章 異世界攻略編
第32話 盗賊のアジト。
しおりを挟む俺達は濃霧の中、ルナの『敵感知』を頼りに走って行く。あの剣には金貨二枚以上の価値、ルナの思い出を背負っている。ただ一度と使わずに無くすのは惜しい。
「ごめんなさい……私が出し惜しみしたから」
「ルナのせいじゃない。そもそも奴らは最初からおかしかった。シャルの剣、ノエルの杖。そして、ルナの剣。武器を執拗に狙う習性、そんなの偶然であるはずがない」
何か……裏がある気がする。
転生者、またお前達の仕業なのか。
「っ、魔物が止まりました!」
ルナの声に僅かに生気が戻る。この辺りに、『食霊樹』の巣でもあるのか?
「真っ直ぐこっちに戻ってきます」
「戦闘準備、シャルとノエルは魔法で援護を」
ルナとクレアはそれぞれ得物を取り出す。
森林の木々を颯爽と移動する気配。
「おねーさんに任せて。スキル【明鏡止水】」
ノエルのユニークスキルか。
【明鏡止水】
極度の集中状態の維持。
全スキル効果の上昇補正1.5倍。
ピンチ時更に効果上昇。最大倍率2.0倍。
「スキル『蓄積』」
魔力が杖へと宿っていく。
魔力の渦に照らされて、光が煌めく。
「『光明の彼方 照らす射光の槍』」
詠唱だと!?
「覚えておいて、魔法師は詠唱をすると威力が上がるって事。見てて……魔法───『雷光』ッッ!!」
ズダァンンッ!!
森林全体に激震が走る。
感電した魔物がバタバタと地面に落ちてくる。
「剣は……ないかっ」
「あと一体残っています」
ならばそいつが犯人っ!
「レイくんっ」
「ああっ」
ここは、シャルと力を合わせるしかない。
「スキル『蓄積』」
魔力を一点に集中させ、解き放つ。
「「魔法『火球』ッッ」」
豪快に森を燃やし、行き場を失わせていく。
「キシャッ!?」
落ちてきた。だが既にそこは二人の間合い。
「やぁああ……ッ」
槌が怒涛の勢いで打ち込まれる。
しかし寸前に躱す『食霊魔』。蔦を展開させ、槌を完全に取り込んだ。
「えぇ~!?」
「任せてください」
ルナが追撃と剣を突き付ける。狙うはただ一点、魔石のみ。『軽業』を使ってひょいひょいと間合いを詰め、気付いた時には既に間合いに入っていた。
「シッ!!」
渾身の突き技に為す術なく、魔物は朽ちた。
よろめいて息絶える。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
「それで武器は───」
無い、だと。
武器だけが無くなっている。
「ぁぁあああ……」
ルナは顔を歪ませて倒れ込む。
「ルナ、まだ完全に無くした訳では」
「レイ、ちょっと待って。ここ……何か変」
取り乱すルナを他所に、ノエルがちょいちょいと俺の肩を叩いた。こんな状況で何か言うのは、余程の事だろう。
「さっきの魔法で……霧が一部晴れて」
ノエルが使った詠唱魔法の事か。
確かに霧の一部が不自然に途切れていた。
しかし変だな。ノエルの魔法は光属性。一方の霧はただの水分であって、光を当てて消える物じゃない。
俺が見ていたのは……本当に霧なのか?
これが、視覚情報を誤認させる一種の幻影ならばどうだ。
スキルの『幻惑』とは別種の、光を屈折やら反射させて虚像を結ばせる事で、本来ある道を見させなくする事も出来るとか。
二層に蔓延る濃霧を、悪用した誰かがいる?
臭うな。
「ルナ。諦めるのはまだ早い」
「で……でも」
「ルナ、これは命令だ。涙を拭いてさっさと歩け」
今のルナにはキツイだろうが、俺の勘が囁いている。
全ての元凶がこの先にいると。
「どうするレイ」
「一択だ、突き進む」
俺はルナの手を取って歩く。
「何ですか……放っておいて下さい。今の私に、主の横を歩く資格なんてありません。従者失格です」
「ふーん、じゃあレイさんはクレアの物でいいですね!」
ギュッと俺の片腕に抱き着くクレア。
もっと空気を読んでくれないかな。
「?」
無理だろうなぁ。
「むっ……」
だが結果的にいい方に傾いた。
「いえ、それは話が別です」
俺のもう片腕を引っ張ってルナが抵抗する。
初めてクレアと会った時と同じ事をしやがって。
「行こう」
霧を掻き分けて進む。
すると、一本の通り道が現れた。
獣道、いや人為的に開拓された道だ。
何度も通って踏み固められた形成がある。
「警戒しろ」
-20
-10
-35
-50
-10
-20
殺意の気配。
好感度が全てマイナスを割っている。
ざっ、ざっと……気配が周囲から近付いてくる。
人だ、魔物じゃないぞ。
その時、奥から声がしてくる。
「うひょぉ~、これ相当の上玉すよ親分」
「売れば金貨10枚……いや、使うのもありだな」
「んじゃ残りは全部売っぱらいますか?」
ガチャン。
金属と金属がかち合う音。
霧を抜けた。
その瞬間、俺は驚愕する。
なんという事だ、こんな事があっていいのか……!
剣や槍、斧。
様々な武器が周囲に散乱している。
その数、十や二十じゃない。
それに、見覚えのある武器も沢山ある。
全部、二層を攻略していた冒険者の物だ!
「……だが、その前に"邪魔者"の排除だな」
「そうっすね……へへへ」
「親分。女もいるっすよ、奴隷で更に稼げますねぇ」
盗賊。数は6人、いやもっといるか。
親分と呼ばれた男と目が合った。
「これはこれは冒険者の皆さん。この場所に辿り着いたのはこれで6組目……だったか? まあ、全員殺すかブチ犯しちまったから覚えてねぇけどなぁ……」
この気配。転生者じゃないな。
分かる、あのおぞましい殺気と余裕感が別物だ。
まあ、今やどうでもいい話か。
「へへっ、この剣の持ち主も……そこに居るのかねぇ」
「あ、あれは……っ」
盗賊の手に渡っていたのか。
『白輝の光斬剣』
ランク:SS
EXスキル:《神通力》
スキル:『治癒』『再生』『浄化』『吸収』『俊敏』
「『白輝の光斬剣』……っ」
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