【完結】魔族の娘にコロッケをあげたら、居候になった話。

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第2章 神隠し事件

第15話 一人ぼっちの魔族の娘 sideラケナリア

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「暇ね」

 同刻、魔族の娘ラケナリアは不満を口にした。
 ぽつんと部屋に一人きり。二人では少し手狭に感じた部屋も、一人になると途端に広く感じてしまう。

「うわぁぁぁん、暇暇暇ひま~!!!」

 そして叫ぶ。一日ってこんなに長かったかしら。

「……グラスが出ていったら、私が一人ぼっちになるのね」

 言葉では分かっていても、実際に一人暮らしを経験すると妙な心細さが訪れる。こう、そわそわしてくる感じ。何かしら。あーー、落ち着かないわ~!!!

「そうだ。掃除をしましょう」

 家庭的な面も養っていかねば。
 そう自分を鼓舞して、ラケナリアはすくりと立ち上がった。

「普段お世話になっているグラスの為、出来る事をするのよ、リア!」

 まずは散らかった物の片付け。次に床をふきふき。
 要らないものはこの際捨てて、スペースを確保だ。

「ふふふ……思春期の男の子はー?」

 お宝本を隠している、と都市伝説的に聞いたことがある。

「気になる、気になるわあ~」

 目をキラキラと輝かせてあれこれと物色。
 しかし、目ぼしい物は見つからない。

「本棚の裏側!」

 サッ!

「机の引き出し!」

 ガサッ!

「ベッドの下!」

 サササッ!

「無い。おかしいわっ。女の子に興味がないのかしら」

 なるほど、道理で自分に靡かない訳だ。
 種族が違うとはいえ、異性で二人きり。いつも和気藹々と話すのも結構だが、それはそれで癪に障るというかプライドが傷つく。乙女の純情は複雑なのだ。

 そして。思考に思考を重ね。

「飽きたわね」

 考えるのをやめた。
 もういい、帰って来てから問いただそう。

 ゴトンッ。その時何かが音を立てて転がり落ちた。
 部屋を掃除している時にあった随分と年季の入った小さな木箱だ。さほど面積を取らないので適当に置いておいたのだ。

「あら……壊れちゃったのかしら」

 落ちた拍子に箱の中身が出てしまった様だ。
 ああ困った、怒られないかしらこれ。

 こ、こうなったら証拠隠滅。
 開閉さえ出来れば気付かれないはず……!

「ってあらら。何かしら」

 何やら古めかしいメモ用紙が入っていた。
 そして木箱の中身は特徴的な窪みの入ったクッションが敷かれていて、華奢品を仕舞うそれに似ている。

 メモにはこう綴られていた。

『Artifact』

 そこから先は字が掠れて読めない。

「魔族語……どうしてこれをグラスが」

 箱の窪みをもう一度よく見てみる。
 リング状の窪み、あまりに特徴的なそれは───。

?」

 心臓が嫌な音を立てた。
 ざわざわと今度は違う意味で落ち着かない感覚。

 誰に宛てた指輪なのか。
 あるいは誰から貰った指輪なのか。

 モヤモヤする。

「……この家はやっぱり二人いないとダメね」

 これ以上考えても無駄だ。

 ご飯にはまだ時間がある。それに、誰かと一緒に食べる事にここ最近慣れ親しんだ身体は、再び孤独を感じてしまうに違いない。ならば、今から取れる行動はひとつだ。

「外に行くわよっ」

 誰にともなく一言を添えて、玄関の戸を閉じた。

 □■□

 外は刺激に溢れている。
 見た事のないご飯。見たことの無い衣服。
 見たことの無い品物、人物、催し。

 やっぱり人族と魔族が啀み合うなんて間違えている。

 お互いにこんな素晴らしい文化を持っているのにそれを交流しようとしないのは変だ。

 魔法で姿を誤認認識阻害させているけれど、これがなかったら今頃自分も差別の的になっているはずだ。

「いつかは、グラスと一緒に……」

 そんな淡い夢を抱いたその瞬間。
 鼻腔を擽るいい匂いが漂ってきた。

「はっ、この匂いは……かつて私をうんと唸らせた至高の一品ッ、"あれ"の予兆がするわ。どこ、どこにいるの!」

 近くの露店をギロギロと鋭い目で探す。
 するとすぐ近くにあった。

「はわぁぁぁぁ、あったこれよっ。これこれ! 国家予算の半分を賭してでも買い占めたくなるわねぇ、あぁダメよリア。ヨダレが垂れているわぁ。じゅるる」

「なんだい嬢ちゃん。コロッケが欲しいのかい?」

「全部下さいっ」


 終わったわ。何をやっているの、バカバカ。食費ゼロじゃないの。買って食べたは言いものの、これからどうやって食い繋いでいけばいいのかしら。詰んでる、えっこれ詰んでるのかしら?

「お金、足りないしぃ……」

 グラスから持たされた金は既にゼロ。
 帰ってくるまで一文無し。勿論、魔界の硬貨ならあるがここで使えるはずもない。完全に終わった。

「嬢ちゃん。いっぱい買ってくれたお礼だ。特別にあたしが作り方を伝授してあげる。だからここで少し働いてみない?」

 働く? 私が、コロッケ屋で……。

「大切な人に、あげたいの」
「ふん?」
「コロッケ。私の作ったコロッケを」

 外はサクサク。中はトロトロ。

「私が丹精を込めて作った熱々のコロッケ。絶対に食べさせてあげたい。でも、私はそこまで器用じゃないからきっと上手には出来ないわ。それでもいいかしら?」
「勿論よ。手を洗ってらっしゃい。すぐに準備するわよ、後あたしの言うことは必ず聞くこと。それが条件よ?」
「えぇ、わかったわっ!」

 そしてコロッケ屋のバイトを始める事になった。
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