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第2章 神隠し事件
第16話 優しい嘘に塗れた街。
しおりを挟む「あれでよかったのかな」
釈然としない様子のコットンは、俺達と別方向に行くスターチスとルスカスの背中を見送りながら、最後の被害者、レノア家の住宅を目指し始めていた。
「分からない。あいつらはあいつらで、大きな手掛かりを見つけて、喜んでもらえると期待していたんだろう。俺も言い方が悪かったかな」
「そんな事ないでしょ。まして、自分の意見を伝えただけでグラスに非はないって。ほら、早く次の家に向かおう、じゃないと日が暮れちゃう」
プロテアに背中を押され、俺は意識を戻した。今は一つの事に集中すべき、というプロテアからの戒めだ。俺はラケナリアのお弁当で満たされたエネルギーで脳をフル回転させる。
「ここが最後の家だね」
街の外周部に近いその住宅は、人気がないかのように静まり返っていた。今までがおかしかったのかもしれない、玄関で待ち構えてくれていた分すんなりと話が聞けたが本来ならばそうはいかない。
「……そうか、違和感の正体は」
「ごめんくださ~い、レノアさんはいらっしゃいますか~?」
こんこんこんと玄関ドアを三回ノックするコットン。
「留守でしょうか」
「開けてみたらいいんじゃないか?」
「えぇっ、大丈夫かなぁ」
躊躇しながらも、ドアノブに手を回す。そしてゆっくりと引くと、ギギギ……と音を立てて玄関が露わになった。中には誰かいるようだ。
「(あれは……)」
俺はふと、玄関の壁に掛かっていたカレンダーに目を向ける。
家族とお出かけの予定など、そのカレンダーには様々な事柄が綴られていた。しかし、ここ最近はそれがない。息子がいなくなったからか。
「この印は……」
「ん、誰かいるのかい?」
「あ、失礼しました。俺達は、冒険者ギルドから派遣されてきた捜査員です。今回は、神隠し事件の一件で奥様に二、三、質問があって来たのですが……」
奥の寝室で眠っていたらしい。表情はなく、酷い顔つきの女性は、重い足取りで俺達がいる玄関までたどり着いた。これまでの中でも相当にショックを受けているようだった。当たり前か、何しろ息子が5日もいなくなっているのだから。
「……冒険者はあんた達だけかい? 全く、あのバカ息子ときたら」
わざとらしく、大きなため息をついて俺達へと向き直った。
「で、何が聞きたい」
「えっと、まずはお子さんがいなくなったと気づいた状況からお願いできますか」
細々とした話はいいから、すぐに本題に入れと言う。
俺は、他の二人に確認を取って、代表して俺が質問を投げた。
「はあ。本当にいい子だったんだよ、あの子は。聞き分けが良くて、あたしに似ず良く育ったもんだと感心していたよ。それなのに、突然消えた。何も言い残さず、何も言ってやれず……」
「つまり、本当に突然いなくなったと。何か失踪に至った原因は分かりますか」
「ありゃしないよ。その日の至って普通で、年相応に外に出て遊んでたんだ。仲のいい友達の一人も出来たんだろうって思ってたんだけど、気づいたらこれさ。神隠しだって? ふざけんじゃないよ……」
「なるほど……では、犯人に心当たりはありませんか」
「さあね。誰がやったかしらないけど、本気で殺したいくらい憎いねぇ……なあ、冒険者さんや。必ず犯人を捕まえておくれよ」
それは涙ながらの訴えだった。この五日間、碌に食事も取れず息子の安否を案じていたのだろう。
「はい、分かりました。俺が責任を持って捕まえます。あ、あと一つ伺いたい事が」
俺は、コットンが控えていたメモを取り出した。
「この数字。何か見覚えはありませんか」
「……なんだいこれ、これが事件に関係あるってのかい?」
───え?
俺は思わず聞き返しそうになった。
そんなはずは無い、確か一番最初の人は……。
俺は今、何かを掴みかけている。
その決定的な違和感が喉元まで出かかっている。
希望を取り戻した目で俺の服を掴む。
「頼むよ。冒険者さん」
俺は、応えなければいけない。
この人の思いに。この人の、期待に。
「はいっ」
□■□
整理するんだ。
三つの失踪事件。それぞれの絡み合った思惑。
共通の目的があった。
そうだ、これは神隠しなんかじゃない。
「優しい嘘に塗れた街……か」
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