17 / 43
第2章 神隠し事件
第17話 事件の真相。
しおりを挟む夕暮れが近づくにつれ、今日の捜査の終わりが近づく。その前に俺は一人になった。
右手の指輪に手を触れる。ズキンと頭に痛覚が宿る。でもそれは一瞬だった。魔道具を正常に起動した。
パチパチと油が弾ける音がしている。
『こら、いきなり手を離しちゃだめよっ』
『いや、違くて……その連絡がっ。そう、そうなの緊急の事なのよっ……本当っ、分かったわ!』
誰かと話しているな。話し声は遠くて聞こえないが、何かの作業中だったのは確かだ。まさか魔族にコンタクトを取る人物がいたとは。帰ったら詳しく問い詰めようと心に決める。
『悪い、忙しかったか』
『ああ、グラスっ、久しぶりに声が聞けて嬉しいわぁ~、えっ忙しかったかって? 何もしてないわよっ、本当なのよっ。疑っているでしょう』
『後ろで人の声が聞こえたんだが』
『ええぇ! 嘘でしょうっ、グラスへのサプライズが……っ、違っ、何でもないの!』
そこまで言って何でもない、は厳しくなかろうか。
『それでグラス、何か緊急の用事かしら』
『まあ緊急って程でもないが、出来れば教えて欲しい事がある』
俺は、ラケナリアなら知っているであろう情報を問うと、少し考えてから頷いた。
『ええ。この時期なら確かにありえると思うけど……』
『分かった。それだけの情報があれば、十分だ』
『ねぇ、グラス?』
『ん?』
『無事に……帰ってきてね』
そんなもの。答えはひとつだ。
『ああ』
□■□
日が暮れて、闇夜に包まれた第13地区。俺達5人はそれぞれに領域を分けて、寝静まろうとしていた。依頼の期限は最大三日。そのうち、一日を消化した。
寝る準備だけ整えて、談笑に耽ける。
といっても、盛り上がる程テンションは高くなかった。
男女は別に分かれている。近くにテントを張って野宿という形になるが、お互いの音は僅かに聞こえる程度だろうか。
「グラジオラス。ひとつ聞いていいかな?」
「なんだ?」
「君には大切な人はいるかい?」
何をいきなり、と俺は動揺する。
「男同士で恋バナかよ」
「ち、違うさ。真面目に答えてくれないか!」
「……そうだな。いるかも知らない」
ラケナリア。たった数日一緒に過ごしただけの存在。
でも彼女は、今の俺にとってどこか『特別』になりつつある。それは恋愛的な意味か、親愛的な意味かは分からない。
でも、かけがえのない存在だ。
俺が冒険者として戦う事を後押ししてくれた。
止まった時計の針を動かしてくれた。
「お前はどうなんだ。俺にだけ言わせるのは卑怯だぜ」
「ふふ。そうだね、いるよ。僕にも」
俺は隣で寝転がる彼の横顔を眺めた。
「家族さ。家族は何よりも大切だ」
そうか。俺は静かに目を伏せた。
「だからなのか。スターチス」
俺は、核心に迫った。
「薄々気が付いているとは思っていたよ」
どうやらスターチスは元から言い逃れするつもりが無かったらしい。俺は少し安心した。
「夜中に悪いが皆集まってくれないか。少し話がしたい。皆にとっても、凄く大切な話なんだ」
女性陣営を交えて話をする。互いに親交を深めた今だからこそ語れる話もあるのだろう。パジャマ姿の彼女達が目を擦りながらぞろぞろと俺達の元へと集まってくる。
「なあに、話って」
「プロテア……眠いとこ悪い。話は簡単に纏めるから」
「ね、眠くないし……はい、目覚めたわ~余裕余裕」
さいですか、俺は苦笑を零した。
「で、グラジオラス。スターチスはどうしたのさ?」
僅かな沈黙を突き破って俺は口にする。
「そうだな。それは本人から後で直接聞くとしよう」
俺は、表情に影を落とす彼をよそに正体を暴く。
「それでいいな、スターチス=レノア」
俺の言葉に瞠目したのは、他でもないコットンとプロテアだ。顔を見合せて驚きを露わにする。
「待って、噓でしょ……レノアって」
「三件目に訪れた、神隠し事件最初の被害者だ」
俺は、レノア家での会話を振り返る。
「最初にひかかったのは、『バカ息子』って発言だ。俺はあの時、攫われた子供かと思ったが違ったな。子供の事は大層褒めていたし、別人だと思ったんだ」
「そっか。その子供に年の離れた兄がいたって事ね。でも、どうしてスターチスがレノア家だと思ったの?」
「その前のあの人の発言を覚えているか。『冒険者はあんた達だけかい?』ってまるでその場には他にいるべき人がいるみたいな言い方が気になったんだ」
以上をまとめるとこうだ。
「『バカ息子』が仮に冒険者なら、ここに来ていてもおかしくないと思ったんじゃないかなって」
「……それだけじゃやや強引すぎる気がしますが」
コットンは未だ俺の解釈に難色を示していた。無理は無い、彼女はまだこの事件の核心に気付いていない。
「いいか。この事件は、全てがスターチスによって。いやレノア家の母親以外の街の住人全体によって仕組まれていたんだ」
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~
たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。
たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。
薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。
仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。
剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。
ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる